九連宝燈
「玉蓮、麻雀と碁の違いは何か分かるか」
「……全く違うと思います」
皇毅の言葉に玉蓮は困ったように瞳を泳がせるが、横で聞いていた凰晄は何かを合点したように額に手を当てた。
手を口許へ添えて皇毅が内緒話をするように玉蓮の耳許へ寄ってくる。
−−−−それは、
イカサマが出来るかどうかだ
「え、!?」
嬉しい皇毅からの内緒話に顔を紅くしながらも話の内容に蒼くなる。
「叔母は役満を作れと言ったそうだな。普通に打ったのでは達人相手に不可能だ。それはつまり、イカサマをやってみろと言うことだ」
「度胸って……まさか、そういう事ですか!?」
ならば確かに、予告通り変わった人だ
「案ずるな、私と凰晄がお前のイカサマに加担してやる。三人でかかれば役満如き余裕だ」
(皇毅様も、……変わった人……かも…)
自分の事は棚に上げて、玉蓮は葵家の人々をそんな風に思ってしまった。
「ぼんやりしている暇はない」
皇毅は袂から銀の指輪を取り出し玉蓮の手を取って指輪を指に差し入れた。
宝石の飾られていない簡素な指輪だが玉蓮は嬉しそうに灯りに透かした。
こんな時にも妻への気遣いが嬉しい。
きっと揺れる心を落ち着かせようとしてくれているのだろう。
「綺麗な指輪……ありがとうございます」
「イカサマの道具だ」
ガクリ、と玉蓮はよろけた。
「私と凰晄が両端からお前の膝元へ必要な牌を投げてやる。お前は牌を手持ちの牌とすり替えろ。その指輪は牌を手の中に隠す滑り止めだ。やるからには『九連宝燈』の大役満を食らわせてやるぞ」
なんてことだ。
「わ、私でなく、皇毅様が食らわせて差し上げたらいいと思います……」
泣きそうになる玉蓮に皇毅の非情な視線が突き刺さった。
「いいか、九連宝燈だからな。鳴くんじゃないぞ!」
「泣きません!」
やけくそになる二人は会話すら噛み合っていなかった。
−−−−
月が昇る夜半
月明かりと灯籠を灯した暗い牡丹台に麻雀の卓子が用意された。
玉蓮は貴族の奥様風な簪や装身具をすっかり外して袖を襷で捲り上げるというヤケクソ丸出しで再び陵容の前に現れた。
その姿に陵容は鼻で笑った。
「おや、先程の娘々とは趣が違う姿。遂に正体を現したか」
小馬鹿にしているような、掴みきれない叔母に玉蓮は膝を折り礼をとる。
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