九連宝燈
「ところでお尋ねするが、娘々は葵家の嫁に重要不可欠なものは何であると心得る?」
「え……!?何でしょうか……愚鈍な私には分かりません。是非御指南下さいませ」
何か、玉蓮には到底不可能な無理難題を押し付けられやしないか。
傍で静かにやり取りを窺っていた凰晄の視線が鋭く客人に向けられる。
陵容はそんな視線をかわして腕を組んだ。
「美貌や家柄など儚い幻に過ぎぬ。重要なのは、そう、ここ一番で発揮出来る度胸と才覚であろう」
−−−−度胸と才覚?
「娘々は麻雀は出来るか?」
−−−−麻、雀!?
「は、はぁ……多少は……」
「ならば此方と麻雀で勝負し見事な役満を突き付けてみなさい。葵家の人間に相応しいか見せて頂こう」
室に残っていた侍女は客人に用意していた見事な刺繍が施される夜着を手から滑り落とした。
刺繍の腕前を問われた際、この夜着を差し出し驚かせようと準備していたのだが、それも徒労に終わったようだ。
ポカン、と口を開けて停止している玉蓮に礼をとり凰晄は早足で室を出ていった。
薄情にも宮城から帰って来ない皇毅に『手に負えませんのでとっとと帰って来てください』と文を出す事を決めたようだ。
「あの……麻雀って……碁ではなく?」
「碁では娘々の度胸を量れぬではないか」
不敵に口の端を上げる陵容の考えている事が全く分からなかった。
しかし葵家の嫁と認めて貰う為にはどうやら麻雀をやるしかないようだ。
(でもなんで……麻雀なの)
玉蓮の心中は揺れに揺れた。
−−−−−−−−−−−−
とっぷりと陽が落ち、漸く宮城から皇毅が帰邸してきた。
実の叔母との再会は別に御涙も熱い抱擁もなく淡々と済み不機嫌顔で自室に戻って来た。
「凰晄から聞いたぞ。麻雀をすると言われたらしいな」
披露する為に練習を重ねていた琵琶の弦をベヨン、ベヨンと指で弄る玉蓮は俯きながらも頷いた。
ここ三日間で準備していた優雅な貴族の奥様風が全部無駄になってしまっていた。
「……こんなことなら麻雀の練習をしてれば良かったですね」
「拗ねている場合か、向こうは麻雀の達人だ。その叔母を相手にして役満を作れとは、どういう事か分かるか?」
「詮無きことだから諦めろと仰られたのだと……にゃんにゃんは皇毅様の妻には相応しくないと仰られたかと思います」
「……拗ねている場合ではない」
皇毅はもう一度繰り返した。
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