九連宝燈
三日後−−−−−−
玉蓮は爽やかな水浅葱の衣裳を身に纏い、結い上げた髪に簪をさして椅子に凭れる。
卓子には優雅な女性が好む蜜合の香炉をたき、傍らには仕える侍女。
「姫様、完璧です。何処からどうみても高官の御正室様です」
「そうそう、姫様はそうやっていれば後宮の妃嬪様にも見劣りません!そして高級侍女な私達!掃除や洗濯や御使いだけでなく、姫様のお衣裳や簪を選んだり、爪のお手入れして差し上げたり、団扇で扇いだり、そういう高級侍女仕事もたまにはさせてくださいね」
横でごちゃごちゃ申し立てる侍女達を横目に玉蓮は浮かない顔をしていた。
(簪が……重い)
そういえば、皇毅から高価な装身具や化粧品を沢山買って貰っていた。
しかし滅多に着飾る事をせず、今も簪が重いとしか思わない自分は、妻として女としてどうなのだろうと自問自答を始めていた。
そんな気怠げな様子が益々『貴族の奥様風』に見えるらしく、横に控える侍女達に「ウチの姫様はやれば出来る!華美な姿も素敵!」と称賛の嵐が巻き起こっていた。
そろそろ紅州からの客人が到着する頃合いだが、肝心の皇毅は御史台に詰めたまま戻りそうもなかった。つまり、玉蓮が出迎えなければならなそうだった。
『変わっている』
そう一言で紹介されていたが、何がどう変わっているのかよく分からない。
とにかく失礼のないようにしなくては。
三日前から紅州蜜柑とその辺の蜜柑の味の違いを食べ比べ判別は可能。
しかし、楽を披露して欲しいと言われたら、詩心を試されたらと、不安は尽きない。
「軒が到着しました」
戸口で家人から声がかかるとお喋りしていた侍女は黙り、玉蓮はビクリ、と跳ね上がった。
遂に来た。変わっているらしい皇毅の叔母様。
「玉蓮はこの室で出迎えればよろしい。私が案内して参ります」
昔から葵家に遣える凰晄は面識があるらしい。
お願いしますと玉蓮は頭を下げた。
静かになった侍女達と揃って暫く俯いていると廊下から誰かが向かってくるのが分かった。
帰って来ない皇毅をちょっと恨めしく思いながら、コクン、と唾を飲み込む。
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