九連宝燈



葵家の落日。
その無念は絶縁しようと骨身に刻んだのだろう。

旧紫門への粛正が止むと、ぽつんと生き残ってしまった皇毅の元へ遥か紅州から銀子や蜜柑が届いた。

そして短い文のやり取りは、細い糸一本繋がっているような、稀薄だが皇毅にとって縁が続いているような気分にさせてくれた。

金がなく書物もろくに買えなかかったが、何故か同じように貧乏な旺季には欲しいものをねだる事が出来なく、送られて来る叔母からの銀子をこっそり使って書物を集め勉強していたのだった。

紅州にて生き残る、そんな唯一の血縁者。

先日、久しぶりに叔母から紅州蜜柑と共に文が届いた。
しかし届いた封書を切った皇毅と傍に控えていた家令の凰晄は、内容を確認すると同時に目を剥いた。



『皇毅殿の妻となりし娘々へ御挨拶に参る』



−−−何故、玉蓮のことを知っている




「それでは叔母様が私に会いにいらしてくださるのですか!?」

粗方の話を把握した玉蓮はさっきまで泣いて蜜柑を食べていた姿は何処へやら、花が咲いたような笑顔になった。

「身に余る光栄です。葵家の嫁として失礼の無いよう準備させて頂きますね」

自覚があるんだか無いんだか、うきうき踵を返す玉蓮に皇毅は眉間の皺に指を当てた。

「ちょっと待て」

先程から人の話を聞いているようで全く頭に入っていない背を呼び止める。

「喜んでいる場合ではない。『酷い目にあう』との有難い忠告はまる無視か?叔母はおそらくお前が葵家に相応しい女か探りにくるつもりだぞ」

「え、それは……お任せくださいませ!私が皇毅様のお役に立つ事を誠心誠意お伝えして、妻として認めて頂きます」

「その自信はどこから来るんだ」

心中に留めておくべき言葉まで洩らして溜め息を吐く。

言っておくべきか、それとも秘密にしておくべきか。

三拍程迷い、どうせ直ぐ分かることだと予め伝えておく事にした。


「これまでの叔母の行動から推察出来るだろうが、叔母はお前に勝るとも劣らず……変わっているぞ」

「え、……」


この皇毅に『変わっている』と、言わせた。








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