二極の脇侍
椅子に座り足を組む皇毅と、寝台の上で正座しながら睨まれる玉蓮は暫く沈黙していたが、埒があかないと皇毅の方が口を開いた。
「見ての通り清雅と監察御史は既に情報を共有していた。それはお前のせいではない。しかし、隠れていろと言った筈だが」
「気になって扉を開けてしまいました……申しわけありません」
「何でも謝って済むなら私の仕事は無くなるんだがな。だが今回は特別に百篇謝って身体で詫びれば許してやる」
「ありがとうございます!……えっ?」
喜んで返事をしたが、言われた内容を反芻し言葉が止まる。
今、サラっと怖い事を言われなかっただろうか。
「先ず百篇謝れ」
ニヤリと笑いながら冠をとり腰帯を緩めている皇毅の姿を見て気のせいではないと固まる。
思わず入って来た隠し扉から逃げ出してしまおうかと考えるが、あの暗い穴蔵の中を梯まで降りないといけない事を思いだし行動に出せない。
皇毅はあわあわ慌てるだけの玉蓮の横に陣取って柔らかい肩を後ろ側へと押した。
「い、いけません!王宮で、王宮でそんな事をしては風紀に関わります!そ、それにそれに早く帰らないと凰晄様がご心配されてます」
「いちいち最もだ」
最もと認めながら、右腕で腰を支え更に押し倒す。
簡単に組み臥された玉蓮は皇毅の肩を押し返した。
その遠慮がちな拒絶に思わず失笑を誘う。
「……存分に謝罪しろ」
そう言って薄闇に白く浮かぶ首筋に音を立て吸い付いた。
「きゃ、」
少し冷えた唇と熱い舌の感触が首筋を駆け抜け身体を丸めるが、身動ぐ度に皇毅は器用に身体を割り込ませてくる。
逃げるどころか完全に共寝の体勢が整い出していた。
今からすることを考えると気が遠くなりそうだったが、先ずはとにかく謝らなければと声を上擦らせながらも玉蓮はポツリポツリと謝罪を始めた。
「皇毅様、申しわけありません……、皇毅様申しわけありません」
確か百篇謝れと言われた。
謝罪を聞いているのか口づけはして来ず鼻先を玉蓮の胸元に押し付けた皇毅はそのまま動かない。
吐息が胸元に掛かる度に身体が疼く。
(は、恥ずかしい……)
皇毅と寄り添えて嬉しい気持ちと、初めて男性と身体を重ねる事に対する恐ろしさが入り交じって気持ちが落ち着かない。
しかしきっと百篇謝るうちに心の準備をしろという事なのだろうと思い、最後の抵抗とばかりに出来るだけゆっくりとした口調で謝罪を重ねていった。
(九十九………)
「皇毅様、申しわけありません……でした」
「……皇毅様」
「………」
百篇謝罪をした玉蓮は無言で自分の胸元に顔を押し付けている皇毅を恐る恐る覗いてみた。
しかし全く動かない上に寝息らしき静かな呼吸の音しか聞こえて来ない。
その事実にパチパチ瞬きを繰り返す。
(朝まで、起きないで……!)
玉蓮は皇毅様の真似をしましたとばかりに、そのまま知らん振りして朝を待つことにした。
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