二極の脇侍


「よくよく考えれば、流刑でなく金目当てで妓楼に放り込まれた罪人は恩赦免責になり、妓楼から救いだした私は美談の御史台長官になるかもしれないな。好都合だ、大獄を興してみろ」

強気で畳み掛ける皇毅に対し清雅は逆にギリギリの線まで皇毅を追い詰めているのだと感じた。

しかし、

(皇毅様の言う通りこの争いで割りを喰うのは外野の二人だ)

チラリと玉蓮に目を向けてみれば、此方を見て黙ったままぽろぽろと涙を零している。
その涙は自分への保身ではなく、皇毅に向けられているようだ。

そしてまた皇毅から極秘任務を預かるまでになったというのに、清雅を信頼し不始末をおこした監察御史にも目を向けた。
暫く考えて清雅も結論を出す。

「腹を割って頂いてありがとうございます。この件に関しては更迭したいと思います。しかし、長官が私の切り札を傍にお持ちならば、私も長官の切り札を持っていようと思います。この監察御史は私が裏行として預からせていただきます」

えっ、と驚く御史を尻目に皇毅は軽く舌打ちをする。

「勝手にしろ」

「では、失礼します」

最後まで姿勢を崩さず一礼し、清雅は踵を返す。
続いて、監察御史も礼をとるが皇毅はその男には見向きもしなかった。
失墜した信頼を取り戻す術はその男にはもう何処にもない。
ただ、清雅が拾った事により首の皮一枚辛うじて繋がった状態でこれからもこの御史台で働らかなければならない。
それが罰だというならそうしよう、御史は座り込む玉蓮にも礼をとり室を後にした。

二人が去ると皇毅は長官室の表側に不在札を立て、扉に閂をさす。
何も言わない皇毅の纏う空気で室の温度が徐々に下がってゆく気がした。

「申しわけ、ありま……せんでした」

「何がだ」

容赦ない返答に呼吸をするのも申し訳無い気分になり、合わせていた手が震えないように抑えながら頭を下げた。

ツカツカと歩いて来た皇毅の気配に驚きながらも逃げる場所もなく、ぱっと手を取られ仮眠室に押し込められた。




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