戻れぬ日


驚いてもじもじしている玉蓮の様子に、何を考えているのか察した皇毅はムッとする。

「何だ、お前は私を愛している癖に嫁ぐ気はないとでも言うのか。私とはただの遊びか」

「そんな、違います……!」

遊びだなんてとんでもないと必死で首を振るが、また押しきられる様な言われ方に正直どう答えてよいか分からない。
三の姫の様に美しく家柄も申し分無い姫の次に出てきたのが、取り立てて秀でる物もない上に戸籍もあやふやな女でしたでは、皇毅の威信に関わるだろう。
この事実を皇毅はどう考えているのか気になってならないのだ。

「私ずっと、お傍にいると約束しました」

「曖昧な返事だな。まぁいいこの話しは後だ、とにかく私が戻るまで大人しく此処にいろ」

そう告げると皇毅は仮眠室から出ていった。
先ずはそろそろ目を覚ますであろう来俊臣の元へ行き三の姫側からの訴えがあった場合、不起訴処分にするよう仕向けなければならない。

彼の気質上「皇毅の色事なんて面白いねぇ」と言いながら事情聴取許可の印くらい捺しそうだ。
決して冤罪を見逃さない刑部尚書だが、「面白いから揉めてよし、お疲れ様の贈呈にはイカした棺桶用意しておくよ」等と先の読めないトンデモ行動をたまに起こすのでたまったものではない。
それに漬け込んで清雅が動けば、三の姫からの訴えを糸に玉蓮へと繋げていく事が可能になる。
そして俊臣が想定していた事態を越えて事が大きく動いてしまうだろう。

今回の件で此方側に味方はいないと考えてよかった。
全ての事情を話しても「手離せ」と勧告されるだろうし、仮に自分が第三者であれば同じ意見だった。
罪人の家の娘を拐って隠すだけならまだしも、妻に上げたいなど世迷い事御史台長官としての資質すら疑いたくなる。

(酷な事に巻き込んだかもしれないな)

助けた筈が失敗すれば玉蓮には更に重い刑に附する可能性がある。
流刑よりも重い刑。
考えただけで傷が疼く気がした。




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