明ける昊へ向かう


玉蓮は生涯を独身で通し後宮で従事したいと願っていたが、義父の都合のいい相手方が見つかれば自分の知らぬ間に婚姻が成立し家の為に嫁ぐ事になるとも薄々承知していた。

その縁はもちろん皇毅の様な大官へと繋がる筈もなく、家柄の均衡が取れた相手であろう。

そういうものだと知っていた。

だから上流貴族である皇毅が相応しい相手を退け感情で動いている事が不思議でならない。
其れほど奥深い経験を重ねてきた人なのかもしれないし、愛情というものを知っている人なのかもしれない。

そんな皇毅の事をもっとよく知りたい。
地位や功績、まして資産などに興味は持てなかった。
それよりも愛を知らずに生きていく筈だった自分にも異性を愛する情を教えてくれた彼の持つ心情が知りたい。
医女を穢らわしく扱う男も多い中、皇毅が何の躊躇いも持たずに触れてきてくれる事も嬉しい。

そんな事を考えながら、皇毅の大きな手を握っているとやがて通路は行き止まりになった。

不思議そうにキョロキョロ見渡す玉蓮に皇毅は指を上げ指し示す。

「梯で上に登るんだ」

「えっ、上ですか!?」

それを聞いて途端に現実に引き戻される。

「文句は設計したヤツに言え」

暗がりをよくよく見ると確かに梯が備え付けられており穴蔵は上へと続いていた。
先に登るか、後に付いてくるかどっちだと問われる。「登らない」という選択肢はどうやら無いようだ。

では、後から参ります。
そう小さく返事をして皇毅に先に登って貰う。
皇毅は文官なのに何故こんな過酷な通路を平気で進んで行けるのだろうと、ぽかんとしていると上から続けと声が掛かる。

梯など登った事がない玉蓮はどこに手を掛けたらよいかすら分からなかったが見よう見まねで、足を掛けてみる。

すると梯からはギシッと頼りない音がした。

(怖い……)

登れません、と泣き言を言いたくなるが足手まといと呆れられるのが嫌で我慢して登り始める。
皇毅が登っても大丈夫だったのだから自分が乗っても平気と言い聞かせそのまま上へと向かって行く。

すると、上から皇毅が覗き込んでいるのが見えた。

「皇毅様……」

呼べば手を差し伸べられ上に引っ張りあげてくれた。

上まで登ってきた玉蓮の身体を引き寄せ皇毅も安堵の溜め息をつく。

「お前を抱えて梯を登れば良かったが、この梯に二人支える強度が無かった。よく登ったな」

「こ、こんなの何でもありません」

「よく言った。という訳で帰りはこれを降りるぞ、覚えておけ」

「えっ……」

玉蓮は絶句するが改めて下に向かう底を確認するのは止めた。
怖すぎる。

梯の上は見覚えのある内壁が続いており石畳も敷かれ、そのまま進むと上に向かう階段に当たった。

自分のいる位置が全く分からないままその階段を登るが再び行き止まりになる。

「………」

嫌な予感がして咄嗟に上を見上げた。

「また梯を登りたいのか」

クックッと笑う皇毅が行き止まりの壁を押すと壁が前に傾く。

「ついたぞ」

そう言われ玉蓮は覚悟を決めて頷いた。




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