分裂


軒から踏み板を介しゆっくりと降りて来たのは、見合いの仲人であった門下省長官、旺季であった。

随人が葵家へ開門の呼び掛けをしている間、旺季は周りを見渡し自分の他には一つも軒が停まっていない事に表情を曇らせる。

皇毅の様子を窺いに来たのは旺季だけのようだった。

この有り様は貴族派同士の力関係を如実に浮き彫りにしている。
明らかに三の姫側が強い。

皆どちら側に落ち度があるかなど、まして真相などどうでもよいのだ。

要はどちらの味方をするか。
そして、その答えが今旺季が目にしている光景だった。
このままでは皇毅は貴族派筆頭から分裂しかねない。

絶対に一緒になってくっついてくると思っていた晏樹まで未だ三の姫の邸から動かない異常なこの事態に一体どう収拾をつけたらよいのだろうと考えると気が遠くなりそうだった。

門が開き礼をとる凰晄の姿が目に入ると旺季は重い足を前に出した。

「久し振りだな凰晄、皇毅の様子はどうだ」

凰晄は答えに詰まり目を伏せた。
他ならぬ旺季に面会謝絶など有り得ない。

「奥に席を用意致します。態々御足労ありがとうございます旺季様」

旺季は西の対の屋に通されると思っていたのに進んで行くのは客室の方だった。

愈々嫌な予感がする。

「皇毅はどうした」

「……刑部へ出掛けております」

その言葉を聞くと旺季は足を止めた。
その形相を見た凰晄は申し訳ありません、と頭を下げる。

「刑部を押さえれば解決だとでも思ったか」

とにかく一刻も早く三の姫側へ謝罪の文を出すのが何よりも必要だった。
それなのに、喧嘩を売っても無駄ですよとも取れるこの態度が向こう方に知れたらどうするつもりだ。

「途方も無いことをしでかしてくれたものだ……」

「申し訳ございません」

凰晄は再び頭を下げる。
そんな家令を責めたところで何も解決にはならないと、落ち着く為に深く呼吸を繰返し怒りを抑え込んだ。

まさか踵を返されやしないか、そう思うと凰晄の合わせた手の掌も嫌な汗で冷たくなっていく。

しかし旺季はそのまま客室の方へ進むとの面持ちで再び回廊を歩き出した。




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