永遠に繋がる


玉蓮が軒に乗り込むと、どうせまた酔うだろうと直ぐ横倒しにされた。
そしてやはり頭は皇毅の膝の上。

「やっぱりご迷惑でしょうし、私歩きます」と申し出るが皇毅は全然聞いていないように、ちゃくちゃくと軒の中に積んでおいた掛布を玉蓮の上に被せる。

(あ、温かい……)

玉蓮がもぞもぞと掛布にくるまると皇毅は眸を細めた。

「お前の好きな月が見えるぞ」

皇毅が軒の窓を少し開けると蔀から月の光が入って来た。

「はい、昨日と同じですね……綺麗」

月を見上げた玉蓮はふぅと一呼吸する。
やっと皇毅の邸に落ち着けるのかと思っていたのに、宮城に戻るなんて全く忙しい事だと思う。
皇毅の邸も素敵だったし、家令の凰晄もいい人だった。
転がり込んで来た身元不明の自分にも家人としての室を与えてくれて、最後にはお弁当まで持たせてもらったこと、本当に有り難かった。

しかし、もう会う事は出来ないかもしれないと皇毅に見付からないように静かに涙を零す。

「勘違い街道真っしぐら中に悪いが、これからの事を説明するぞ」

そう言う皇毅に濡れた頬を指でぺちぺちと叩かれた。

「お前に一つ協力して欲しい事がある。お前を妓楼に放り込んだ御史の顔は覚えているか?」

「えっ……はい、会えばおそらく分かります。若い御史様でした」

玉蓮は自分を妓楼に置いて悲しそうに去って行った御史の顔をぼんやりと思い起こす。

「そうか、会う必要はないが確実な情報が欲しい。お前が言った奈落の底から面通しをしてくれ」

「奈落の……そこ」

玉蓮は抑えていたのに、皇毅の言葉に堪えきれず泣き出す。
今度こそ奈落の底に放られるのだと知り恐ろしくなった。
皇毅はそういえば玉蓮が勘違い街道を独走中だったと思い出した。

「違う、お前が言った奈落の底は私の仮眠室だったろうがしっかりしろ」

言って玉蓮を起こし抱き上げた。

「……私がお前を棄てると本気で思っているのか?」

耳許で皇毅の声がする。
玉蓮は涙で苦しくなった胸を押さえた。

何故皇毅は自分をこんなにも抱き締めるのだろう、その理由をどうしても訊いてみたい。


「私もお訊きしたい事がございます。皇毅様、私は、……三の姫様や、皇毅様の…輝かしく安寧な行く末を、台無しにしませんでしたか…」

「していない」

「でも、もし、皇毅様が私を必要としてくださっても、私が差し上げられるものは、真心しかございません……それしか私には差し上げられるものが無いんです」

皇毅は再びしっかりと自分の胸に玉蓮を抱き寄せた。


「そんないいものを貰えるなら、幸せだろう」




玉蓮、愛している−−−




玉蓮は皇毅の洩らした言葉に驚きハッと湖面のような瞳を開いた。

二人は視線が合うと、その瞳を緩やかに閉じ、そのまま静かに唇を合わせる事が出来た。




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