大輪の華


三の姫が邸の中へ進むと官服を纏った皇毅が彼女を迎える。

すると三の姫はパッと扇を下げて皇毅には満面の笑みを魅せ礼をとった。

「お逢いできて嬉しく思います御史大長官様。わたくしの我が儘を聞いて下さって恐悦にございます」

麗しい唇に弧を描かせると一層美しさが際立ち、皇毅も眸を細める。
本当は見合いとなる宴席は公務が終わった夕刻からであったが、三の姫は堅苦しい宴席の前に二人で逢いたいという大胆な我が儘を申し出て一人先に到着したのだった。
それゆえ皇毅は休暇を取らざるをえなくなり今に至る。

職務より、わたくしでしょう?

暗にそう告げられているようだった。

「四阿に軽い席を設けておりますのでそちらへお願い致します」

控えていた凰晄が告げると邪魔されたとばかりに、ほんの一瞬三の姫の眉が歪んだ。
皇毅はその姿を見逃さなかったが何も言わなかった。

「ありがとう」

家令を労うのは皇毅であるはずなのに、にこりと微笑んで見せ凰晄に声を掛けたのは三の姫だった。
既に邸の主になったような振舞いだがそれでも皇毅は黙っていた。

凰晄は何も言わない皇毅に不自然さを感じたが、そのまま二人を四阿に案内する。

四阿には三の姫の為に用意された柔らかい腰掛けがあったが三の姫は困った様に指を口許に添える。

「どちらに座れば宜しいかしら長官様」

そう言うと、すっと白い手を皇毅の方へ差し出した。

「……此方へ」

皇毅は三の姫の手を取って腰掛けへ座らせる。
ありがとうございます、と満足気に瞳を潤ませる三の姫は文句の付け所のない愛らしさだった。

「長官様、お名前で呼んでも宜しいでしょうか?」

皇毅は三の姫を一瞥するが静かに答える。

「官位で呼ばれるのも素っ気ないですから名前で呼んで貰って構いません」

すると三の姫は腰掛けから身を乗り出し皇毅の傍に寄った。

「嬉しい……では、皇毅様と…」

皇毅の横に据わり込み頬を火照らせ見上げてきた。

唖然とする皇毅の呆れ顔は端から見ればやはり無表情で三の姫には伝わっていないようだった。

「玉蓮も見てみなさいよ!此処からお二人が見えるわよ」

侍女達は遠いながらも四阿が覗き見る事が出来る植え込みの陰からこっそり皇毅と三の姫を盗み見していた。

玉蓮はどうしていいか分からなかったが、ただ自分の手が震えている事が悲しくて必死で両手を握っていた。




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