雷鳴迫る曙


注意深く顔色を窺いつつ、玉蓮は握っていた侍女用の室内着を机案に戻した。

「皇毅様、脈を診ても宜しいでしょうか」

そう言うと、またも返事を待たずに皇毅の腕をとり脈診を始め出す。

秀麗と共に長官室で挨拶された時も、こんな風に勝手に腕を捕まれ言いたい放題言われた事を皇毅はふと思い出した。

そう、言いたい放題だった−−−


「玉蓮……脈診で言いたい事があるなら特別に内緒話を許可してやる」

凰晄の前で性行為過剰だの、あの行を述べられては流石に寒気がするが、おそらくまたペラペラと診断を述べだすに違いない。

そんな皇毅の白けた視線に玉蓮は不思議そうに小首を傾げるが、素直に皇毅の耳許に手を添えてそっと耳打ちした。

「何かを考える時に手を握り締める癖はありませんか?畏らく肩の強張りを解せば楽になります。お揉みしても宜しいですか?」

「………」

皇毅は玉蓮の耳許で内緒話を返す。

「直ぐに戻るから待っていろ」

そう耳打ちすると皇毅は身を翻して室から出て行った。

囁かれた言葉の意味はよく分からなかったが、まだ耳許に残る皇毅の低い声を辿るように耳を触れれば今更ながら顔が熱くなる。

「貴女の素性を詮索する気はありませんが、医術の心得があるようですね」

凰晄に言われて恥ずかしそうに微笑む。

「女の癖にとよく言われましたが、お役に立てればと思っております」

凰晄は静かに瞑目する。
食医とは言われていたが、本当に医女だとすればやはり元々高い身分ではないのかもしれない。
これでは三の姫と張り合えない−−−

「……着替えが済んだら参りましょうか玉蓮」

「はい、直ぐに支度致します!お待ちくださいませ」

どこまでも素直に返事をする玉蓮に凰晄は確かめるように頷く。
いつの間にか玉蓮を三の姫と並ばせる事ばかりを考えていた。
それは玉蓮にとって不得手なのは一目瞭然で酷な事となるだろう。
しかし喩え酷でも皇毅の為に傍に留めておきたい、そう昨日会ったばかりの娘に過剰な期待を向けていた。

(しかし玉蓮がどう思おうと此処にいられるかは三の姫にかかっている……三の姫にこの娘を留め置いておける器量があるかどうか……)





数刻後−−−多くの随人を従えた仰々しい女軒が葵家の門に付けられ三の姫到着が知らされた。

軒から降りてきた彼女を一目見た凰晄は、玉蓮を置いておきたい目論みに絶望感を抱き眩暈を抑えるため額に手を当てた。




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