雷鳴迫る曙


扉が開くと直ぐに皇毅は玉蓮の腰から手を外してくれた。

しかし手が離れた事により端から見れば、玉蓮の方が皇毅の膝に乗り上げ誘惑しているような恥ずかしい姿に転じてしまった。

「違うんです凰晄様、掛け布団を、皇毅様が寒くないように掛け布団を……」

皇毅の膝の上で真っ赤になって言い訳する玉蓮と、意地悪な笑みを洩らしながら彼女を眺めている皇毅を交互にみた凰晄は、はぁ、と溜め息を洩らして扉を閉めた。

余りに慌てる玉蓮が膝から落ちないように皇毅が再び腰を支えてやると、またそれに驚き転がり落ちそうになる。

「玉蓮、食べられたりはしないから落ち着きなさい」

凰晄が和ませる為に言った言葉は皇毅の失笑を誘った。
何となく失笑の意味を汲んだ凰晄は、また溜め息を吐きながら二人を眺めた。

常に冷静さを失わない凰晄だったが、長く遣える彼女も皇毅が誰かを傍に寄せている姿を見るのは初めてだった。
正直その姿には大いに驚いていた。

この娘が此処にいれば、宮城に行ったきり邸に寄り付かない皇毅が帰って来るようになるかもしれない。

そんな期待をしてしまいたくなる光景。

しかし、と凰晄は目を細める。
皇毅は会えば三の姫を断わる事はしないだろう。
今まで陰ながらも支えられていた貴族派閥、三の姫の実家に対し背を向ける選択を利益不利益に冷徹なこの人がする筈がない。

最悪の事態にこの娘をどう庇ってやれるか考えておかねばならなかった。

「何を考えている」

機嫌を悪くしたような皇毅の声に凰晄は視線を戻し、要件を述べる。

「皇毅は湯浴みをなさい。玉蓮は邸を案内しますから付いて来なさい」

「は、はい!お願いします」

玉蓮は皇毅の膝から滑り降り、凰晄に礼をとる。

「今日から働かせるのか」

「客人ではないと言ったのは貴方でしょう」

そうだったな、そう口にして今日の宴席の事を思案する皇毅の顔に少々疲れの色が滲む。

玉蓮はそんな皇毅の顔色の変化を見逃さなかった。




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