食医の理


「お前が下がれば休めると思うがな」

絶対譲らないという皇毅の表情を見て、分かりましたと凰晄は一礼して室を出て行った。

生姜湯を飲んで身体を温めた玉蓮を寝台へと横にさせるが、皇毅を見る玉蓮の眼差しには少々不安の色が見え隠れしていた。
皇毅は自分の妓楼での行いをそういえばと思い出すが知らん振りし、目を閉じさせる。

「此処にいれば危険な事は及ばないから安心しろ」

玉蓮にとって今一番危険なのはそう言う皇毅自身なのだが、やはり知らん振りして眠るのを見守る。
皇毅を気にしつつも疲労困憊だった玉蓮は規則的な呼吸と共に直ぐに眠りに落ちていった。

やっと休ませられた事に安心するが、玉蓮が楽な衣服に着替ていない事に気が付いた皇毅は椅子から立ち上がる。

身体を寛げてやるために腰帯に手を掛けゆっくりと帯を緩めると玉蓮は深呼吸し、小さな声を洩らした。

眠ると更に色香が増すようだと思わず息を飲む。
そして以前にも同じ事をしてやったのを思い出した。
あの時は不埒な事など頭の片隅にも浮かばなかったのに、今となっては緩めた腰帯から曲線を描いて膨らむ胸に目が行って仕方がない。

優しく触れる位なら目は覚まさないだろうが、触れてしまえば最後までしないと気が済まなくなる事は分かっていた。

休ませてやらねばという気持ちと、なにより明日の宴席を片付けてからでないと恐らく玉蓮を混乱させてしまう。

事を起こすのはそれからだと自らに言い聞かせて掛布を引いてやり火桶を確認してから室を出た。

「凰晄……」

やはり外には家令が待ち構えていた。

「覗きとはいい趣味だな」

「冗談はさておき、明日のお見合いの段取りをご相談したいのです」

皇毅は面倒臭いというように背を向け歩き出す。

「中止と言ったはずだが」

「中止出来ないと申し上げたはずですが」

皇毅は忌々し気に舌打ちし凰晄も舌打ちこそしなかったがしたも同然の顔付きだった。

「お相手は大恩ある旺季様がご推薦された貴族派名家の三の姫です。昨夜妓楼で妓女を見染めて来たので断りますなんて言えますか」

「玉蓮は妓女ではない」

「そんな事見れば分かります。問題はそこではありません」

分かっていたのかと不思議になっていると凰晄は続けた。

「三の姫を正室に、玉蓮を愛妾になさい。それしかありません」

「玉蓮に三の姫に、お前の面倒まで見きれるか」

「何で家令の私が列に入れられてるのですか!今の発言、亡くなった夫に詫びて頂きます忌々しい」

本当に言いたい放題の家令だが彼女の夫は長く葵家の家令を務めた随人として優秀な男だった。
また夫の死後、子供に恵まれなかった為に凰晄が家令を引き継ぎ今までよく尽くして来てくれた。
皇毅の行く末を案じての発言なのは重々承知は出来る。

この見合いも葵家の血を繋ぐ事に執念を燃やす凰晄に折れて決めたものだった。

しかし、今となっては凰晄の提案を呑むつもりなど無かった。


欲しいのは彼女だけ−−−


皇毅は朝日が迫る東の空を見ながらどうするかと思案した。




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