食医の理


静かな外の渡り廊下を皇毅に付いて歩きながら、玉蓮は中庭の植え込みや四阿を眺めていた。

「素敵なお邸ですね。お庭も広くて、春になると花が咲くのですか?」

「多少はな」

多少ですか、とまた中庭を眺める。
皇毅の多少の程がよく分からないがきっとたくさん咲くのだろうと考え、花が咲く頃まで此処にいられますようにと願った。

「東の対の屋は家人の室だ。凰晄に客間へ通されなくてよかったな。客間だったら明日には路傍に蹴り出されてるぞ」

「そ、そんな……皇毅様、申し訳ありません。私、凰晄様に妓楼から来たと言いました。家人として相応しいとは思われてはおりません」

皇毅は鼻で哂いそれでも東の対の屋に通されたとは凄いなと労う為に玉蓮の手を掴んだ。
しかし玉蓮の冷えきった指先に眉を顰める。

考えてみれば昨日から玉蓮は殆んど寝てない上に、度重なる環境の変化と恐怖に晒されていた。
明るく振る舞ってはいるが疲労は極限まで達している事だろう。

そのまま玉蓮の白い手を握り込んで東の対の屋に位置する室に連れて入った。

室内は狭いが寝台と小さな燭台のついた机案があり落ち着いた造りになっている。

玉蓮を寝台に座らせ自分は椅子に腰掛けた。

「疲れただろう。もう寝ろ」

もう寝ろと言われても、遣える主人が前にいるのに横になれるはずもなく玉蓮は背筋を伸ばしてきちんと座っている。

すると侍女に着せる衣服と小さな火桶等を持った凰晄が室に入って来た。

「生姜湯です。寝る前に飲みなさい」

凰晄は玉蓮に湯呑みを持たせ瓶から温かい生姜湯を入れてくれた。
温かくなる湯呑みに安堵し凰晄の気遣いに感謝する。

「ありがとうございます。でも私より皇毅様のお身体が心配です。お飲み下さいませ」

玉蓮は頂いた湯呑みを皇毅に差し出した。
皇毅は先ずお前が飲めと言うつもりが、

「飲みたければ後で室に届けます」

即行で口を挟まれる。

「……凰晄、下がれ」

こめかみを揉みながら、シッシッと追い払おうとする。

「畏れながら、皇毅には明日の宴席についてお話しがあります」

「中止しろ」

「出来ますか!自分で何とかなさい」

話せば喧嘩腰な二人を見て玉蓮はまた狼狽えだす。
顔から疲労の具合をみた凰晄は声を鎮める。

「この娘はもう休ませておあげなさい」




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