奥底の箍


皇毅の表情が不機嫌なものに変わった気がした。
実際には無表情だったが、悪しき風習が残っている事態に腹を立てているのだと玉蓮は思った。
そして断れないとはいえ妓女達に交ざって場違いな宴席に出た事を責められているように思えて身を小さくする。

皇毅はそんな玉蓮に自分で注いでいた酒杯を出した。

「宴席馴れしているのなら酒くらい注げるだろう」

傍に寄って注げとばかりに酒杯を傾ける。

そういえば傍に控えているだけで、全く酌を勧める事もせず逆に皇毅の膳を食べてしまっているではないかと気が付いた玉蓮は大変、と焦って皇毅の横で酒瓶を持つ。

「如何ですか?」

物凄く今更な言葉だが、宴席ではこうしろと教えられた通りの台詞を述べてみる。

しかし二人の間には随分と広く距離が空いていた。
玉蓮が皇毅に酌をするには目一杯腕を伸ばさなければ届かない。

其処からどうするつもりだと皇毅は試しに酒杯を出してみる。すると玉蓮は間を詰める事もせず皇毅の予想通りに懸命に腕を伸ばして酌をしようとする。

(マヌケ過ぎる……)

皇毅が呆れてそう思った時、その姿を見た事でハッと一つの記憶が蘇った。

「……お前、あの時の女か」

「えっ?」

面を上げる玉蓮に、思わずクッと笑みを溢す。
なんでしょうか?と困った顔をして伺う玉蓮だが皇毅は機嫌が戻った様に酌をされた酒に口をつけている。

皇毅が何を言いかけたのかは分からなかったが、機嫌が直って良かったと安心してにっこりすると、皇毅は指でちょいちょいと手招きしている。

もっと此方へ寄れと言われている様であった。
玉蓮は顔を紅くしながらちょこちょこと皇毅の傍に寄り「如何ですか?」と再び酌を勧めてみたが酒杯は出されなかった。

見るとすっかり膳も終わっているし、持っている酒瓶に入っている酒の残りも少なかった。
申し訳なくなりしゅんと頭を下げていると、衣擦れの音が聞こえ皇毅がぐっと近付いて来たのが分かった。

玉蓮が不思議に思って顔を上げると吐息が掛りそうな目の前で皇毅の双眸とかち合った。

「なん、なんでしょう」

玉蓮は余りにも予想外の事に動けず擦れ声を上げるのがやっとだった。
しかし、よろけながらも立ち上がろうとすると、いつの間にか後ろに回っていた皇毅の右腕に腰をガッチリ押さえられた。




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