奥底の箍


数刻前に遡る御史台−−−

執務室に籠もり清雅は一人玉蓮の戸籍書類に目を通していた。

見るに彼女は幼少の砌、父母を共に亡くし父方の縁に引き取られていた。
母方の系譜は粛清され貴族の譜からも降ろされ断絶している。そして今回の横領事件発覚で父方も断絶という経緯だ。

そして清雅はもう一つ呆れた事実を発見した。

(なんだあの女、養い親と養子縁組がされてないぞ)

見る限り玉蓮と引き取った旧家には養子縁組が成立しておらず同居人となっている。
犯罪に荷担させていた事実を鑑がみると、捨て駒と考えて良いような扱いだった。

そこまで読んだ時に扉が叩かれ、入って来た御史に所用を言いつけられてしまった。

面倒だなと思いつつ清雅は戸籍書類をしまい込み室を後にする。

恐らく、犯罪に荷担した事で某しかの不都合に当たってしまったのだろう。
あのポカンとした雰囲気から皇毅の弱味を握り脅していたとは思えないが、仮に弱味を握れたとしても脅せる様な相手ではなく逆に潰されてしまうだろう。

そう今回の極秘の不当処分は彼女が皇毅を脅して逆に潰されたという説明が最も納得出来た。

実際会いさえしなければ、その可能性になんの疑問も持たなかった。
しかし今日見た彼女の様子から違和感が拭えない。

消えてしまった玉蓮がどうなったのかは二通り考えられる。
もう既に死んでいるか、それとも貴陽の何処かにある妓楼に沈められたか。

(妓楼……か)

清雅は沈みゆく夕陽を眺めた。




−−−夜も更けてくる下級の見世桃遊楼の中では、玉蓮がしきりに暗灯の明かりが消え入りそうな事を気にしていた。

「皇毅様、この室少し暗すぎませんか?」

「ボロ小屋を隠す為だろう」

シレっと答える皇毅に眉を下げる。
こんなに暗くては足元が危うく帰るに帰れないのではないかと心配しているのに。

「私がお邪魔した事のある妓楼はもっと明るくて、その、華やかでした」

「……何?」

皇毅が一瞬驚いた様に眉を上げる。

「お前妓楼にいたのか」

「いた、と申しますか医女官が宴席に出なければならない風習がありまして……私は毎回直ぐに席を退出していましたが、あまりいい思い出はございません」

皇毅は舌打ちして酒を足す。

「まだそんな風習が残っていたとはな」

「宴席では医女官の装いはしておりませんでしたから、皆様ご存知無いかと思います」




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