桃遊楼


玉蓮は一人ゴトゴトと不快な程揺れる軒の中で大人しく座っていた。
先程まで裏庭で放心しへたりこんでいたのだが、いきなり一人の御史に腕を引かれ裏門に停められていた目立たない軒の中に押し込められた。
軒の窓は全て閉められており中は薄暗くどこに向かっているかは全く分からなかった。
しかし先程会った若い御史は「お前は妓楼へ売りとばされる」と言っていた。
だから妓楼に行くのだろうとぼんやり考えていた。

皇毅はどうしてこんな事をするのだろうか。
罪を償うと申し出たのに、これでは罪を償う余地も与えてくれないも同然だった。
もう一度皇毅と話しがしたい、いや会いたかった。
皇毅の口から直接聞けばどんな理不尽でも納得出来る様な気がしたから。

でも、きっともう会っては貰えないだろう。

ガタガタと揺れる慣れない軒に玉蓮は徐々に酔ってきてしまう。
「軒を停めて下さい」と申し出たかったがそんな事言える訳も無くズルリと体勢を崩して横たわる。

軒はそのまま暫く走ると、ゴトリと音を立てやっと停まった。

「出ろ」

外から声を掛けられ続いて戸と御簾が上げられる。

すっかり酔ってしまった玉蓮は布で口許を被いながらよろよろと足元もおぼつかない様子で軒から降りる。

暗い中に居たために軒の外は眩しく感じた。
一体どこなのかよく分からないが御史に促されるまま屋敷の中へ入って行った。

『桃遊楼』

玉蓮が運ばれたのは貴陽の隅に集合する小見世の一つだった。
貴陽には他に大きな花街が存在し、老舗大見世中の大見世に華やかな名妓が揃い夜毎大きな宴が開かれる夢の世界であった。しかしこの見世は、そんな華々しい花街とは異なる下級の女郎屋だった。

室の中に通されると桃遊楼の主人が現れ御史と何か話している。玉蓮は口許を押さえつつ屋敷中の様子をきょろきょろ窺っていた。
狭いながらも小綺麗な廊下から二階へと延びる階段が見える。古い木造の屋敷の廊下は全て紅い敷き布で飾られ、玉蓮は自分の置かれた現実を忘れ物珍しそうに見渡していた。
そんな彼女に哀れみの視線を向けていた御史は振りきる様に見世から出ていってしまった。

一人残されしょんぼりしている玉蓮の前に見世の主人が寄って来て話し掛ける。

「玉蓮と言ったな。ここに来たならもう昔の事は捨てろ。ここでは誰もお前の身の上など興味ない、お前は只の妓女であればそれでいい」




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