誤算


陸清雅は登城した途端同僚の監察御史の室に呼ばれた。

聞けばその御史が担当している銀山の横領事件に本日一斉検挙が入るとの事で急遽補佐役としてまわって欲しいと告げられた。

清雅はあまり納得がいかなかった。
銀山横領事件は大した案件ではないし、今更自分がまわる意味が分からない。

「それ程検挙が大掛りと言う事か」

「いや、貴方に任せたいのは玉蓮と言う女に関する経歴の抹消だけです。しかし、極秘扱いでお願いします」

「玉蓮?」

「今回の事件の共犯で、御史台に紅御史の医女官として派遣されていた女です」

そんな女がいたのか、と清雅が少し驚いていると御史は散々迷った挙句、自分の命じられた極秘任務を清雅に洩らしてしまった。

「主犯はその養い親と一族で恐らく流刑、家門とり潰しで終了となる予定だったけれど……玉蓮だけは違うようですね」

「どう違うんだ」

「一族に大きな借金があって検挙と共に全財産差し押さえは決まっているが、差し押さえでは賄えない分はその女を女郎屋に売りとばして補填させるらしいのです」

清雅も眉を潜める。

「それは明らかに不当処分だ」

「しかし女の身分を奴婢に落とし経歴を抹消しろとの事です」

「上からの命令か」

「女の処分は御史大夫の独断です。私も反論出来なかったけれど女郎屋に売りとばして債務を補填するなんて今までありましたか?」

清雅は首を横に振る。そんな前例があるわけない。
前御史大夫である旺季も、その流れを継いだ皇毅も例え犯罪者であったとしても女を売りとばして債務を埋めるなど有り得ない事だった。

「その玉蓮という女、本当にただの共犯なのか?」

「私にはただの医女官にしか見えなかった……しかし相当都合の悪い何かがあるとしか思えない。そうでなくてはこれは確実に職権濫用の不当処分です」

「………」

皇毅の命令でなければ降りた所だが、清雅は逆に何故皇毅が玉蓮に対しこの様な無慈悲極まりない処分を下したのか気になった。

裏があるのか私怨でもあるのか、そして清雅はもう一つの違和感に気が付いた。
見方を変えれば流刑になる筈の女をこの貴陽に留めておく事になるのだ。
本当に邪魔なら流刑にするべきではないのか、全てが噛み合わない。

(なんなんだ?)

清雅は玉蓮という女に興味が湧いた。




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