天女ではなく


「仮にお前が天女の如き資質と、天と形容出来る家柄を持っていたとしたら……例え今と変わらぬお前であっても、私の目に留まる事は無かったろう」

「そんな、どうしてですか?皇毅様の家柄と釣り合った方がいいに決まっているのに」

「家柄を楯にふんぞり返る女は論外だが、環境に恵まれた女が資質や気品を高められるのは当然だろう。私は己の力のみで資質や気品を保てる女を傍に置きたいというのが趣向だ」

「趣向……」

玉蓮は始めて聞く皇毅の「趣向」を覚えておこうとしっかり聞き入る。
その趣向に自分が当てはまっているのかはおそらく客観的なものなので分からないが、始めて聞けた話しに少し胸が高鳴った。

「私は皇毅様の瞳が、趣向といいますか、好きです」

「……別に無理に捻り出さなくていい」

「本当です。皇毅様の瞳を見ていると、安心感が湧いてきて不思議なんです」

皇毅はそういえば此方が睨んでいる時に何だかぽわんとした表情で目を合わせて来た事を思い出した。
最初はただの阿呆なのだろうと思っていたが、当初から見つめ返されていたと知ればそれはそれで気分がいい。

「そうか、それならば私はお前の身体が好きだ」

「好き……えっ!?」

「あぁ、そういえばまだ見たこと無かったな。おそらく好きだ」

まだ陽は昇らないと、身体を進めてくる。

皇毅に腕を掴まれた玉蓮はもう何度目か忘れてしまうくらいの危機感に再び堕とされた。


(皇毅様、私も好き……でも…)

「待って、下さい……イヤ!婚前交渉なんて、本当は嫌…」

「は、……何?」

婚前交渉、という風化して塵となり何処ぞを漂う言葉に一瞬固まる。
良家の姫らしい貞操の堅さには満足感を覚えるが、それがまさか求婚している自分まで適応されているなど、どういうことだ。

一体何故−−−

(待て、感覚がおかしいのは私の方なのか?)


「ご、ごめんなさい皇毅様……まだ妻にして頂けるかも分からぬ身分ですのに。でも、私にも色々思う事がありまして……つまらない女でごめんなさい」

皇毅は玉蓮の言葉に上の空で、彼女の言う「色々思う事」の内容が聞き返せ無かった。

彼女が何故、平民医倉でなく後宮の医女官であったのか。
根底にある辛い出来事を皇毅が知る次の機会はもう少し後となった。




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