迷いへの入口


何故玉蓮に出来るのか、

些細な手がかりの言葉が残っている。
狐の面を被って現れた凌晏樹が残した言葉だ。

『大常寺大医署副長官には外朝全ての書庫が開放される。それを利用してこっそり御史台がやってきた事を調べてごらん。君が個人的にびっくり仰天することが書いてあるかもしれないよ。そして、そのびっくり仰天を立証できれば、もう誰も君に手出しは出来ないだろうね』

個人的にびっくりすること。

謀反の証拠につながるものが隠れているのかもしれない。
それを立証し、紫劉輝側につけば誰も手出しは出来ない。

確証はないが晏樹は皇毅と戦い生き残る道へ放り投げてくれようとしていたのではないか。
そんな風に思うのだ。

皇毅は何も詮索するなと言っていた。
それを守らなければ、もしかしたらもう許してくれないかもしれない。

だから、最悪の結末もまだ残っている。

「私が皇毅様の秘密を探ったりしたら駄目だそうです。そうなったらまた追い出されるかもしれません」

殺されるかも、とまでは言わなかったがそのいい草に侍女達は目を剥いた。

「姫様は当主様が出世が早い官吏様だとご存じですよね!?後ろ暗いことの百や二百あるの当たり前ですッ秘密を探ろうなんて止めてくださいね。葵家の地位と名誉の足引っ張ってどうするんですか!私達の為にもおとなしく当主様の妻やっててください」

一つや二つではなく、百や二百。

「は、……はい」

侍女達の言い分の方が遙かにまともだった。
自分の可哀想な過去の事をほじくり返して、その次はどうなるのだろう。

秘密があり村を焼いた旺季と皇毅を責め立て親の仇をとったと満足して、その先は。
可哀想だった自分の過去への復讐は終わるが見たかった未来は消えてしまう。

「本当に……私はなんのためにやっているのかしら…」

我に返ったような気持ちになり、ぽつりと漏らした。

「とにかく当主様の秘密は探る必要全くなし!これからは葵家の事を第一に考えてあげてください……って、なんで侍女の私がこんな説教してんのよ」

もうもう、いつまでも困った姫様ねと湯殿に放り込まれた。

侍女の言う通りだと、湯に顔半分まで沈めてひたすら我に返る。

もう真相はしらなくてもほとんど見えている。
旺季様を王にしたいというのが最大の秘密なのだ。
その邪魔をしてくれるなと言われているだけ、邪魔するどころか、謀反失敗の逆賊にならぬよう成功する事を毎日八仙様に祈祷すべきだ。

そして謀反に失敗した後のことを心配すべきだろう。

(皇毅様の秘密が遠のいていくけれど……、それもいいかもしれない……私が探ろうとしている事は知っても迷惑なだけで誰も幸せになんてなれないんだわ)

生きている大切な人を傷つけ、死んでしまった者も返らない。

悲劇はもう此処にはない。
もはや誰にも変えられない過去にある。
許す為に知りたい、でもそれで台無しになってしまうものが沢山あるかもしれない。

ただ、謝って欲しいだけなのに、
しかし、たったそれだけのために全てが壊れるかもしれない。

(皇毅様、私自分勝手で見つけたら蓋を開けちゃうかもしれませんので、ちゃんと隠しておいてくださいね……)





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