終わらぬ夢


「はい……?」

肯定にするかに思えて語尾が疑問調になってしまった。
流石の皇毅もガクリ、としたように頭を枕に沈めた。

「それは……もう一度私に求婚してくださっているのですか?」

「もう一度じゃないだろう。何度目だと思っているんだ」

嘗て皇毅に吐露した言葉がしきりに思い出された。
自分の声が脳裏に木霊する。

『私には真心しか差し上げるものがありませんのに』

あの時と同じ言葉を言ったら、また同じ言葉を返してくれるだろうか。

「私には真心しか差し上げられません」

「そんないいものくれるならば尚更だ」


−−−−−同じ……


誠実な人だと感じたあの時と同じ。
今でも、こんな複雑な関係になってしまっても、あの時と同じ。

「ありがとうございます皇毅様」

もう一度だけ、信じてみてもいいかもしれない。
それが儚い夢だとしても。

夢が終わるまで傍にいてもいいかもしれない。

返事の代わりに身を寄せて腕を回す。
手も温かかったが、身体もとても温かく心地良かった。

「礼を言われたわけだが、肝心の返事はどうなんだ。ありがとうございます。でもごめんなさいじゃないだろうな」

言質を取らないと気が済まないのは職業病だろうか。
今ので十分伝わった気がしたのだが、ちゃんと言わなければ納得しないのか。

玉蓮は恥ずかしそうに目を泳がせコホン、と一つ咳払いをした。

「妻にと考えてくださりありがとうございます。よ、よろしくお願い致します」

ペコリ、と頭を下げるとぶつかりそうになってしまった。
玉蓮の仕草を熟知していた皇毅はすんでのところで頭をかわす。

「そうか」

妓女としてでもなく、医女としてそして妻として傍にいられる。
解決していない事がまだ山積みなのはお互い承知の上だ。

灯された火は心を明るくするまで大きくなっていた。
この夢が終わらないでほしいと願う。

玉蓮の腹に乗っていた大きな手がするり、と無くなり衣擦れの音がして今度は太股が温かくなった。

(え、……?)

不思議に思って温かい場所を探ると先ほど握っていた大きな指の感触があった。

「皇毅様どうされましたか」

「殺しに掛かってくる無銭妓女の相手をする気はないが、妻ならば喜んで相手しよう。愛する妻に床で抱きつかれて無視するほど薄情ではない」

「今のは抱きついてたのではなく、背中の具合を確認しようとしまして」

先ほど自暴自棄になって妓女として抱かれようと思った時は恥ずかしさなど感じなかったのに、今になって恥じらいの気持ちが湧いてきてしまった。

初めての夜というわけではないのに、久しぶり過ぎてもう思い出せないくらい恥ずかしい。

せっかく妻にしてくれると盛り上がっているというのにここで流れをへし折っていいのだろうか、どうなのだろうかとひたすら目を泳がせる。





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