終わらぬ夢


「私も少し疲れました。貴族の娘として不自由なく過ごしていたので、それが終わってしまった生活に少しだけ。それを慰めて頂こうと思っただけなのですが……浅はかでした」

「そんな慰めは虚しさが増すだけだ」

「はい…」

確かにそうなのかもしれない。
愛する人ならばきっと虚しくなどならないはずだが、
皇毅にはもう愛するその人がいないから虚しさが増すだけなのだろう。

今夜はたくさん本音が聞けた。
好きになって胸をときめかせて、そんな自分が恥ずかしかったが、本心を知ることが出来て今は良かったと思っている。

「旺季様を王にするとお前に伝えたのは、虚しい夜を紛らわすだけの側女にするためではない」

「はい…」

気のない返事を繰り返す。

寝そべりながら腰帯の裾を握る皇毅が此方へ寄れと指を倒していた。
日を改めて話を聞くと言ったのに、最後まで話をきかねば東偏殿へ戻してくれなそうだった。

諦念して寝台の縁から戻りコテンと横になる。
どうせ横に寝ても何もされないらしいのでどうでも良くなっていた。

「妻として傍におくと決めたからだ」

そんな、

「畏れ多くてお返事が出来ません……」

妓女の方が気が楽です……

そう続けるはずだったが、への字口が開かなかった。
本当にそうならどんなに嬉しいか。

けれどきっと違う。

「私が望めば唯一無二の正妻にしてくださるのですか?」

「貴族の戸籍を用意すれば出来る」

凰晄と同じ事を言っている。
まさか皇毅も考えてくれていたのだろうか。

「もうやめてください。絶望しているのに、吹けば消えそうな灯りをともさないでください」

仄暗い胸の中にちろちろと瞬く火が灯った気がした。
窮地を救ってくれる御史大夫を好きになっただけの打算的な恋愛感情だというのに。
皇毅もこの不安定な心を見透かしているだろうに、何故また救ってくれると言うのだろうか。

気が付けばお腹の上に皇毅の手が乗っていた。
振り払おうとしたのに、その手の上に自分の手を重ね合わせていた。

「また儚い夢をみさせてくださるのですか?」

「お前が私の命を支えてくれると、天啓のようなものを感じた夜があった。そして今もそう思う。しばしば襲ってくる身体の疼痛は高価な丸薬を服しても何をしても治らなかったのだが、お前が傍で仕えてくれると治まる。そんな天女のような医女を手放したくない男が妻になってくれと藻掻いているのだ。他に行くところがないなら付き合ってくれてもいいだろう」

完全に自分のために仕えて欲しいのだと言い切った。
しかし重ねた手は温かく、もしかしたら今の言葉の方が本音なのではないかと思えば灯った明かりが大きくなった気がした。

「私はずっと皇毅様の医女でいますと申し上げましたよ」

「医女仕事だけでは足りん。妻になってくれ」





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