二人の王


背中が痛寒い。

寝た事を確認してから言ったのに。
でも寝たというのは確実に判るものなのだろうか。

師について病人の検死に立ち会った事は何度もある。
なので死んでいるか生きているかの判別は間違えたりはしない。
死んでいる振りなど通用しない。

けれど、……寝ている振りは、ちゃんと見分けられるのだろうか。
出来ないのかもしれない。

(皇毅様が今の恨み言を聞いていた?……嘘でしょ怖い)

ここはもう無視をするしかない。
万が一起きていても、このまま振り返らず布団から這い出て走っていけば逃げきれる気がする。
この夜半に皇毅が走って追いかけて来るほど自分に対して躍起になるとも思えないし。

先ほど軒から逃げだし走って追ってきた皇毅に羽交い締めにされた事などすっかり忘れて、そうしようと決心した。

ずるずる、と布団から抜け出し紗を持ち上げた所で反対の腕が後ろから掴まれた。

「きゃあああ!」

逃げよう、全力で。
もう寝殿の扉しか見えなかった。

寝殿の扉が見えていたのに、次の瞬間寝台の天井が見えた。
続いて見たくなかった人の顔も見えた。

「旺季様のいい話の最後に折檻とは何だ」

玉蓮は自分で言ったことを必死に思い出した。
半分頭が真っ白だったが確なんとか言い訳を捻り出す。

「え、え〜と、皇毅様にですね、もし奥様がいましたらお心を痛めますので、妓楼へ通うのはどうかと思い進言致しました。医女としても大変案じておりますのでどうか妓楼通いはお止めください……ね?」

眉を八の字にして笑ってみる。
先ほどのようにハッキリ言えない自分も情けなかった。

「折檻やら苦い薬湯のくだりはどうした」

「苦い薬湯は身体に良いのです……」

否、やっぱり言う。

玉蓮は背筋を伸ばして皇毅に面と向かった。
しっかりと正座をして睨みつける。
医女として、そんな体面をひっさげているが面もちは悋気満々だった。

「皇毅様だけでなく私の心身も害しますので妓楼通いはもうお止めください!」

危うく指を突きつけそうになったが、すんでの所で思いとどまった。

「承知した。悪かった」

「え、……?」

低い声が返ってくると、一瞬言われた意味が分からなく停止した。
今の上から命令で本当に承知したのだろうか。

蝋燭が一つも灯っておらず暗すぎて表情がよく見えない。
真面目な顔をしているのか、それとも小馬鹿にしている顔をしているのか。

「私には夜な夜な傍にいてくれる妻がいるのに妓楼に寄るなど失礼千万だった」

「妻じゃなくて、医女です!」

「同じだ」

「お、同じ?……同じじゃありません!」


−−−−−全然違います、そう言いたかった言葉は何かに掻き消された。





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