二人の王
−−−−−自ら語って欲しい
−−−−−私に許す機会を与えて欲しい
抓られた玉蓮は頬を膨らませながら手でさする。
『王宮の書庫に御史台を告発する証拠がある』
あの嵐の夜、晏樹が囁いていた。
それをもって皇毅を追い落とせば生き延びられると示していたと今なら分かる。
しかし玉蓮はその道を選ばず共に人生を歩んでゆきたいと願った人から真相を聞きたくて傍にいる。
誠実な人だと、それは幻想かもしれないけれど、ほんの少しの可能性を今でも信じていた。
証拠は必ず何処かにあるだろう。
けれど皇毅が隠し続け自分で暴いてしまったならば、その時が最後かもしれない。
その覚悟も出来ている。
皇毅の誠実さはきっとそこまで追いつかない。
それがもう一つの結末。
「その時は、ちゃんと皇毅様に委ねますね。私は知りたいだけですから」
小さい声で伝えると返事はなかった。
背の傷が痛んで消耗してしまった皇毅は再び意識を手放してしまったようだ。
皇毅がすっかり寝入った事を確認すると玉蓮は背筋を伸ばして肝心な事を思い出した。
そうそう、コウガ楼の常連札。
とりあえずあれは許せない。
迎えに来たなんて実は嘘っぱちで遊んでいたのでないだろうか。
途端に怒りで頬が熱くなる。
でも妻として許せないとは言えない。
妻じゃないから……。
考えた末に医女として許せないという事にする。
玉蓮はコホン、と咳払いをして寝ている人に語りかけた。
起こさないように小声で。
「あれほどお身体に負担をかけないようにと申し上げたのに…!お酒を呑んで妓女遊びとは情けないです。私が妻だったら折檻です。絶対に家にはいれませんからね!」
小声だが語尾を少し強めに言ってやった。
言ってやったわ、と一人で満足する。
寝ている相手に言った事になるのかは謎だが自分の気持ちの整理にもなった。
もし自分が妻という立場だったとしたら、コウガ楼で遊んで来るなど絶対に許せない。
それだけはハッキリしている。
「でも妻じゃないから折檻は無しです。明日とてつもなく苦くて効能がある薬湯を出すだけです。では医女はこれにて失礼致します」
我ながら暇そうな独り言だったわと失笑して礼をとる。
ここで起こしては身も蓋もないのでそろそろと布団から這い出ようとすると邪悪な視線を感じた。
(え、……まさか…)
振り返りたくなかった。
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