二人の王


月が陰る暗がりで暫く見つめ合っていた玉蓮が目を伏せる。

「旺季様にもう一度お会いし……それから心を決めようと思います。幸い機会にも恵まれましたので」

本心でもあった。
貴族派から出す妃候補が旺邸へ来る。
その世話を仰せつかっているからきっと旺季にも会えるだろう。

だから旺季様に会って答えをだしたい。

本音をいえば秀麗に否、女性に官吏登用の道を開いてくれた紫劉輝こそこれからの彩雲国を統べる王であると感じている。

後宮で貴妃として仕えていた秀麗に会いに来る美丈夫で穏やかな夫としての姿にも好感を覚えた。
この方ならば紅貴妃も幸せに過ごせると女官達と一緒に微笑んでいた日がもう遠くに感じながら思い出す。

きっとこれからも紫劉輝と秀麗の活躍を見たいと願う気持ちは変わらないだろう。

旺季こそ王に相応しいとこの場で宣言すれば皇毅は納得して自分を生かしてくれるかもしれない。

けれど、言えない。

そんな嘘を吐いても自分と皇毅の心が離れてゆくだけだと、そんな風に思うのだ。
皇毅は紫劉輝の逆臣となってしまうかもしれない。
否、きっともう水面下ではなっている。

そんな人を好きになってしまった。

「命も大事ですが私は心も大切にしております。もう少し時間をください。皇毅様のお心は他言致しませんし逃げたりもしませんので」

「承知した」

皇毅の口調は穏やかだった。

「旺季様を王に相応しいか見極めるなどふとどき千万だが、きっとお前も心が変わるに違いない」

「私は彩雲国の善良な民です。王が民を想うように民も王を想っております。旺季様に王を想う民の目線でお会いしてみます」

皇毅は耳を傾けている様子だ。
なのでついでに余計な事も付け加えた。

「皇毅様は民としてずっと見てきましたが、いまいちよく分からない判定不能の官吏様なので、これからも頑張ってください」

途端に大きな手が伸びてきての玉蓮頬を横に引っ張った。
痛たたた!と非難の声を上げると、勝手ぬかすなと言われた。
皇毅の悪代官っぷりは目を瞑って差しあげますと言ってあげたのに。

彼が官吏として有能なのは知っている。
外朝を支えてくれていることも。
けれど私情で自分を逃がしてくれた事はきっと信念の為に全てを棄ててきた一人の優秀な官吏にとって綻びなのだ。

些細な綻びと油断しいる裂け目はやがて大きくなり修復不可能になってゆく。
狐の面を被って現れた凌晏樹も、その後ろに立っていた正体不明の男も綻びを修復しにきたのだろう。

ここから出て行くべきなのは分かっているし皇毅もその道を開いてくれた。
けれど……


『旺季を王にする』


その退路が塞がれてしまった。

謀反の証拠もない。
今ここから逃げ出して秀麗の元へゆき皇毅達の企みを話しても恐らく何も始まらないだろう。
その証拠は何もないのだから。

けれど確実に退路が塞がれた気がする。

退路を塞ぎ、しかし証拠は何も掴ませない。
それが皇毅のやり方なのだと思った。




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