最愛の人


「主上を除いて、全ての公子達が刑死してゆきましが、実際罪に問われていたのは殆どが母親の妾妃であったり一族の者達で公子自身はいわば『まきぞい』食らった形でした」

「全員ではない。ぼんやりしたのが一人残っただろう」

ぼんやりしたのが……。

我が君をぼんやりしたのと形容され、宰相としては激怒するべき所なのに的確過ぎてなんだか言い返せなかった。
どの公子よりも存在が薄く、ぼんやりしていて、旺季様から情けを貰えたから王になった事を悠舜も知っている。

「しかし慣例に沿うならば、実家の罪は後宮に入った妾妃には及ばない、ましてや公子が刑に服す事などあり得ない。御史台がその慣例をねじ曲げてしまったのです」

「だから、……一人残っているからいいだろう」

「公子をも例外を許さない所行は、必ずや旺季様にも還ってきます。貴方はそれを恐れ、センカ王を追いつめる事にとり憑かれた旺季様から飛燕姫を守る唯一の方法を探したのではありませんか?」

皇毅の双眸に深い瞋恚が刻まれる。
誰よりも尊敬する旺季があの時どこか狂っていたと、皇毅自身感じていたのでしょうと核心をつかれた。

公子達をも刑死においやった御史台の前例は決してなかったことになど出来やしない。
旺季が罪を犯せば、ましてや謀反の大逆罪など犯せば一族は必ず皆殺しになる。
皇毅も一味とみなされ殺されても文句言えない立場だった。

けれど……飛燕姫の命だけは、諦められなかった。

一族皆殺しという名目で、何の罪も犯していない葵家の者達が巻き沿いになってゆく光景が、飛燕に被さる事だけはどうしても我慢できなかった。

旺季を王にしたい。
けれども、それにはどうしても危ない橋を渡るしかない。
貴族派の大官総出で旺季への禅譲を促せれば一番よいが、うまくいかなかった時、最愛の人を巻き沿いにする。
その時皇毅の妻であったなら、きっと逃げきれない守れない。

旺季のセンカ王への執着を目の当たりにしてから、不安は膨らむばかりだった。
唯一無二の妻になって欲しい。そんな純粋で素直な心が、その頃から徐々に澱んでゆくのは分かっていた。


どう転んでも彼女が命を繋げてゆける道


皇毅がしてやれること


公子にまで及んだ刑罰が及ばない場所は何処か、何があっても彼女を差し出して来ない強い力を持つ家は何処なのか。

考えた末、皇毅は飛燕姫に蝗害や疫病対策の記録や対処法を送る為に縹家へ嫁いで欲しいと告げた。
旺季から守る為、旺家の血筋を絶やさず生きて欲しいからだと言えば断られる事を知っていたから嘘をついた。

大儀があるとなれば彼女はゆく。
そういう人だ。

旺季も老家令も、皇毅が情報をとるために飛燕姫を使ったのだと今でも思っているだろう。
飛燕姫自身も皇毅を心の何処かで恨んでいるかもしれない。

旺家から逃げて生きて欲しいと願い、自分の妻になってほしい本当の気持ちを棄て彼女を手放した真実は、飛燕姫に科せられた大儀によってかき消えてしまった。

「確かに十把一絡げに公子達を追いつめた当時の御史台はやりすぎだった」

飛燕姫の事は口にしなっかったが、悠舜は皇毅が全て認めたのだと、辛い思い出に対して頭を下げた。





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