三本の指に入る驚愕


葵邸でも同じように侍女が暗い昊から舞い落ちる雪を眺めていた。
しかしこちらは風流に窓から乗り出すでもなく、ゲンナリ顔で木の棒を使い窓をバタン、と閉めた。

「寒いと思ったら雪が降って参りましたよ」

その言葉を聞いて、なんだか先ほどより寒い気がしてきた侍女達が室の真ん中に置いてある火鉢に集まってきた。

玉蓮も同じように掌を赤く燃える炭に当ててみる。
パチパチ、とよく燃える炭はなんだか今までになく輝いて見えた。

「皇毅様がいて下さるだけで心強く感じておりましたが、今はこの火鉢の暖かさの方が私を支えてくださいます」

その言葉に侍女達はどんよりとした気持ちになり俯いた。
わざと当主様と自分の関係は終わってしまっている事を伝えているのだろうけれど、受け入れるのは寂しく感じる。

「そうそう、こ、この炭は、なかなか良いものを支給してくださっているのですよ。変な煙立たないし……ねぇ?」

「そうね、そうね、もしかして当主様からのご配慮かしらね」

「姫様もお戻りになったことだし、めでたし、めでたしハハハ」

それは無理矢理すぎだろう!と口を滑られた侍女に非難の視線が集まり当人はすいませんでしたと肩を落とす。
その様子に玉蓮は少しだけ気持ちが楽になった。

しかし秀麗に言えなかったように、侍女達にも本当の事は言えなかった。
罪人であることも、皇毅の秘密を探る為に戻ってきた事も、潰されそうな胸の内は何もかも口に出来ない。

皇毅も巻き沿いになるから−−−−

刑部尚書との約束は守るつもりだ。

「私がここへ戻ってきたのは、最後のお仕事をするためです」

玉蓮は覚悟して瞳を見開いた。
皇毅と玉蓮の関係に真実と偽りが入り交じっているように、侍女達と玉蓮との関係にも偽りが混じる希薄なものなのだと胸に刻んだ。

「皇毅様とお仕事をするのはこれが最後になると思いますので、それが終わったら……本当にお別れになると思います。皆様は私が此処に戻って来て、怖くはないですか?私のせいでまた夜盗に襲われたらと、迷惑に思わないですか?」

私が怖くはないですか?迷惑に思わないですか?
心配なのはそれだけ。

玉蓮の言葉に侍女達はお互いの顔を視線で確認しあう。
確かに玉蓮の素性は不確かなものだった。
侍女達の中でも支持する者としない者で諍いがおこるほど不思議な存在だった。

しかしある夜、突然現れた凰晄の遠い親戚は、またある夜突然いなくなった。
そして掌を返したように皇毅も凰晄もその存在を消してしまった。

皇毅の仕事を手伝っていた間諜だったという玉蓮の話は変わらない。
だからそれが真実なのだろう。

「迷惑だなんて思いませんとも」

一人が堰を切った。

「そうよ、そうよ、姫様……いえ、玉蓮さんは侍女仲間だったんだから!この家にいる限り私達が守ってあげますとも。それが道理だわ」

「最後のお仕事もお手伝いしますよ!あ、危なくない範囲で…」

侍女達の気持ちが返ってくると玉蓮はまた苦しくなった。

私は、本当はずっと、此処にいたいんです。
そう言えたらどんなにいいだろう。




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