再会


鼓膜には自らの上がった息だけが共鳴し視界は一向に晴れない。
人影が見えた事により足を止めたが、その途端身体から汗が吹き出してきた。

暗がりで月でも見ていたのだろうか、男が此方を見ると身体を覆う汗の粒が急激に冷える。

会いたかった人がそこにいるのに、なんと声を掛けてよいやら分からなかった。

「……皇毅…さま、……」

開いた口から漸く言葉が落ちてきたが、独り言のようにか細く届いたかは定かではなかった。
か細い呼びかけに此方を向いた皇毅と視線があう。

念願の再会なのに、二人の間には沈黙だけが降りていた。

思えば今まで随分と近くで彼を見ていたからだろう、こうして距離をおくとまるで別人の様に遠く感じて仕方がない。
皇毅からも何か声を掛けて欲しいと思えど、……

自分の気持ちだけが溢れかえる。


−−−−−どうして、助けにきてくれなかったのですか

−−−−−私、帰れなくても、ずっと待っていたんです


玉蓮の瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。
言いたい言葉が出てこない。

玉蓮には何の否も無いのに、愛を未だ胸に秘めているのに、彼はそんな事百も承知で迎えに来なかった。

御史台が興味を示す縹家の丸薬は袂にしっかりしまってある。
玉蓮の知りたい事は、皇毅に近づく理由は一つだけだと、そう思われている事が悲しい。

けれどやはり知りたいのだ。
皇毅が自分の村に火を放って大切な両親を殺したのか、それが不都合で捨てたのか。

彼はその程度の人だったのか………。

たとえそうだとしても、その罪に対し向き合う気持ちがあるのかが知りたかった。

玉蓮は袂を掴んだまま暫く黙っていた。

もしかしたら、馬鹿みたいなほんの少しの期待なのだが、自分の顔を見れば皇毅は旧情を思い出してくれるかもしれないと、そんな気持ちも捨てきれていない。

しかしその気持ちが玉蓮の瞳に闇を落とし胸を苦しめていた。

愛して欲しい気持ちと、憎みたい気持ちが交錯する。
どちらしろ、玉蓮には皇毅を愛する資格も身分も持ち合わせていないのだから、彼が決めていい。

そんな気持ちを込めて、ほんの少しの沈黙を守った。

俯くと乱れた前髪が顔に落ちてきて視界を遮る。
見るも無惨な姿での再会になってしまったのだろうと思えば少し恥ずかしかくなったが今更だ。

「紅秀麗の邸にいるそうだな。息災にしていたか」

漸く皇毅が口を開いた。

落ち着いていて、静かな声。
しかしそれは悩み抜いて答えが決まった後の静けさなのかもしれない。

皇毅はもう答えを見つけ、玉蓮の事をおいて先に進んでしまったと、そんな風に感じさせる低く穏やかな声だった。

別段惨い事を言われた訳ではないのに、玉蓮は息が止まるほどの衝撃を受け、次いで胸に悲しみが湧きあがった。





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