イカサマ賭博師


イカサマ賭博師として医術の師匠とともに荒稼ぎした内心など官吏には伝わっていない。

好奇のざわめきの中、玉蓮は猛然と卓についた。
無論相手はご贔屓になろうとする官吏の男一人のみ。
玉蓮は冷静に手元を観察して少し瞳を眇めた。

卓に置かれたのは札『龍』
単純かつ迅速に勝負がつくが、イカサマで勝つためには先ず、理由をつけて札に触れなければならない。
そして更に絶対条件がある。

自分で賽子を振って、札をとる順を操作しなければならない。

何も準備のない玉蓮に高い壁がそびえ立っていた。
既にここから勝負が始まっている。
そんな事をいっさい窺わせないほんわかな微笑みで玉蓮はぱちん、と手を叩いた。

「このお札で勝負するのですか。お札で博打やるの初めてなんですけど、どうやるのですか?」

興味津々顔の玉蓮に居合わせた官吏達誰もが”葱と鍋とお負けに薪まで背負った妓女が来た”と思った。

しかし誰も妓女の賭博参加に難癖をつけてこない。
相手の男はそれなりに力のある高官なのだろう。
加えて胴元のいない官吏達の秘密の遊技場なのだと玉蓮は改めて感じた。

「札を八枚引いて、一度だけ札を変える。揃った札によって勝ち負けが決まるんだよお嬢さん」

「まぁ、ではどんな絵が揃えばいいのかしら」

そんな事を言いながら勝手に積んである札を手に取り面白そうに表に返し柄を眺める。
しかし取り巻きの官吏達からは特別腕を掴まれる事もなかった。

一通り柄を見終わった玉蓮が大きく頷いた。

「なんとなく分かりました!では札を引く順番を決める賽子は私が投げでもいいですか?」

是非を待たず玉蓮が賽子を手にする。
このまま賽を降れば勝てる。

既に山には札が積んであるのだ。
どんな役をもってしても敵わない最強の『龍王降臨』が完成していた。


−−−−−勝った


振ろうと手を挙げたところで、いきなり人垣の後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。

「その賽子、暫し待て」

驚きのあまり指から賽子が滑り落ちてしまった。

賽子はコロコロと虚しく転がるが、面が決する前に玉蓮は賽子を床に弾き飛ばした。
床に転がった賽子を拾い上げた声の主は面白そうな声色で続ける。

「賽子を三つ指で掴むその構え……何処かのイカサマ賭博師がやっていた持ち手と同じだ。お前もイカサマ師なんじゃないのか」

官吏達に道を開けられ声の主、清雅が玉蓮のつく卓子の前に歩いてきた。
先ほどまでいなかったはずなのに、いつの間にこの場へ来たのだろうか。
そして覆面官吏なのに何故潜んでおらず出てきて邪魔しようとするのか。

イカサマ賭博師がやっていた持ち手と同じ……。
その通りだった。
清雅は他のお坊ちゃん官吏達とはまるで違い容易に核心をついてきた。

冷たい汗が一筋玉蓮の頬を伝う。
お師匠様はもういない。

どんな状況になっても全部自分で成し得なければならない。
玉蓮はチラリ、と窓を眺めた。

(四階だったわ………窓を破って逃げるのは無理ね)

万が一を考えている玉蓮の前に二つの賽子が行儀良く置かれた。

覆面官吏が何故突入を前にこの場に出てきたのか玉蓮には分からなかった。まさか見かねて助けに来てくれたのだろうか。

「イカサマの嫌疑が掛かったのだから賽は俺が振ってやる。これが本当の博打だ。そうだろう『嘩 玉蓮 』」

玉蓮は瞳を見開く。

忘れかけていたその名
忘れかけていた逃れられない罪

−−−−そうだ、

助けに来てくれたわけがない

この人は、罪人達を捕まえに来たのだ






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