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「田村くん、私も好きだよ」


そう、私はいつものように口から出任せを履く。田村くんは私のいつもと変わらぬ返事に嬉しそうに頬を染めた。そんなに嬉しそうにしないでよ、


私はあなたを好きではないのに・・・・・・


一ヶ月前、私は田村くんに告白をされた。正直、嬉しかった。それは別に私も田村くんのことが好きであったからではない。彼氏が出来ることで友達から羨望の眼差しで見られることが嬉しかったのだ。友達はみんな彼氏を欲しがっていたから、きっとみんな私を羨ましがるだろう。そんな不純な気持ちで付き合い始めた。


後悔した・・・・・・


田村くんと付き合い始めて、友達から羨ましがられるようになった。けれど私の心は満たされぬまま。常に田村くんへの罪悪感を抱きながら私は別の人を想っていたのだから。


「跡部、用事ってなに?」


日が暮れた後の静けさの中、ボールを打つ音だけがテニスコートにこだまする。私は彼がこちらに気づいてくれるまでその場に立ち尽くした。彼はいつもテニスに目が無くて、自分の世界から中々戻っては来ない。でもそんな、懸命な彼が好きだった。でもそれは許されないこと。


ポンポンとボールが地に転がった。彼がこちらに気づいて目線を私にくれた。


「名前・・・・・・」


一歩一歩私に近づく跡部。心臓がどきどきとうるさい。私の前で停止すると、跡部は私に視線を注いだ。青の瞳に吸い込まれそうになる。


「好きだ」


ああ、私は弱い人間だ。本当は私もこの人が好きなのに返事を返せないのは、私に独りになる勇気がないから。みんなの妬みに堪えられる強さがないから。ダメなのだ。この人を独占することなど許されない。だから、私は嘘をつく。


「・・・・・・ごめんなさい」






私はさながら


地を這う魚
(もう後戻りはできないわ)