深夜、王宮のありとあらゆる者が眠りについた頃、ある男の寝室に忍び込む一つの影があった。その影は寝台で眠る男に狙いを定めると、一気に手にしていた刃物を振り下ろした。 「何か用かなお嬢さん」 刃物を振り下ろした影は、寝ているはずの男に腕を掴まれてバランスを崩し、寝台に倒れ込む。その拍子に頭に深く被っていたはずのマントがひらりと肩に落ちた。艶やかな黒髪がはらりと舞う。 「どうして俺を狙った」 男は女を寝台の上に押し倒すと、余裕の笑みをみせた。女はそんな男をキッと睨み上げる。 「貴様が私の命を助けたからだ!」 男は訳が分からず、女の言葉に首を傾げる。 「貴様が私を助けなければ私はみんなと一緒に死ねたのに!それなのに貴様は!」 女はポタポタと涙を流して寝台の上を濡らした。 「それは逆恨みというものだ」 「うるさい!うるさい!」 貴様を殺して私も死ぬ!と繰り返す女を見つめる男の目の色が変わった。それは少し陰りを含んだ色。 「そんなに死にたければ一人で死になさい。俺を巻き込むな」 「なんて勝手なの!貴様が私を助けたのよ!」 「帰りなさい。そうすればこの場は見逃してあげよう」 「帰る」という言葉に女はビクリと肩を震わせた。そしてわなわなとさらに肩を震わせる。 「帰る場所なんてないわよ・・・・・・!貴様が私を助けたあの日以来ね!」 そう言って女は盛大に泣きはじめた。あまりにわんわんと容赦なく泣くものだから、困ってしまったのは男の方である。このままでは衛兵が駆け付けて来て、ことを穏便に運ぶことが難しくなりそうなのだから。 「わかったから、泣くな」 女は次の男の言葉に、思わず泣くのをやめた。 「今日からここが君の帰る場所なのだからな!」 迷い人は進路を得た (衛兵の目を潜ってここまで来れたんだ。優秀優秀!) (・・・・・・) (シン!その娘は誰ですか!どこから連れてきたのですか!?) ← |