大きな砂漠を越えた場所に、とある王国があった。その王国の玉座は、なんでも、偉大なる女王によって守られているらしい。しかし近年、国中にはこんな噂が立っていた。婿として王宮に入った男たちが次々と女王によって殺された、と。そんな噂が立ったものだから、もう女王の婿になりたがる者などいなくなった。そんなある日、シンドバッドと名乗る男がぜひ婿にと名乗りをあげた。 「そなたが新しい私の夫ですか」 女王は光の無い瞳で呟いた。その頬は幾分か痩せこけて、疲れきっているようにも思われた。 「私は最初の夫に殺されそうになって以来、言い寄る男を信じることが出来なくなりました」 そう言って女王は手元にあった剣を引き抜いて男に向けた。男は帯して臆した様子もなく、静かに言った。 「それでは最後に私の冒険譚を聞いて下さい」 そうして男は語り始めた。女王はその話に思わず聴き入った。 「・・・・・・私の話はここまでです」 「・・・・・・」 女王は話の続きが気になり、ここで男を殺してしまうのが惜しくなった。 「・・・・・・明日も私の元に参りなさい、」 こうして、その男は毎夜女王の元に来ては物語を語っていくようになった。そして、ついに千と一の物語が終わりを告げると、男はどうぞ俺を殺して下さい、と言った。しかし女王はそうしなかった。男が綴る物語を聞くうちに改心し、また、男に恋慕を抱くようになったからである。女王はにっこりと笑って言った。 「いいえ、あなたを私の夫に迎えます」 そう言われた男の方はというと少し目を見開いた後、女王と同じようににっこりと笑った。 「いいえ、残念ながらそれはお受け出来ません」 「え!?」 「なぜなら私はシンドリア王国の王だからです」 暫くの間、女王の開いた口が塞がらなかったのは言うまでもない。 こうして女王は人を信じる心を取り戻せた かは定かではないーー・・・・・・ 千夜一夜の物語り (また例の女王から恋文が届きましたよ) (困ったなあ・・・・・・ああくるとは思わなかったんだ) (後先考えずに行動するからですよ) ← |