私はシンドリアという豊かな島国で暮らしていた。両親とささやかな暮らしを送る毎日は、それなりに幸せだった。しかし、運命は残酷だった。私はある日を境に、ある男に運命を狂わされてしまったのだ。 私は気怠い身体に鞭打って、王宮に至るまでの道程をただひたすらに歩いていた。私はこれから自身の運命を狂わせた男に会いに行くのだ。親には勘当されてもう帰る場所さえない。親にいくら言っても耳を貸してはくれなかった。 王様の子供を身篭っている など正気の沙汰ではない。でも本当なのだ。あの日私は酒に酔っていた。そしてあの男、シンドバッドに会ったのだ。それからの記憶はなく、朝起きた時には隣になぜかシンドバッドが寝ていたのだ。ベッドの様子と自身の様子からいって、シたことは確実だった。ああ、最悪だ。子供を身篭っていることに気が付いたのは、その日から大分経った頃であった。そしてあの夜の男が、シンドリア国王シンドバッドだと知ったのもちょうどこの頃。あの時は驚き過ぎて死ぬのではないかと思った。 そして今日、ようやく国王との謁見の許可が下りたのだ。私は別に王様の子供が出来たから王宮にあげろだの、王位継承権を寄越せだのそういう類いのことをお願いしにいくわけではない。私が今本当に欲しているのは、お金だ。うちは貧しいので、子供を生んで育てていくお金なんてあるはずもない。ただでさえ、勘当されて途方に暮れているのに。責任をとってそれくらいはしてほしい、ということをお願いしてくるのだ。 「名前さん、国王に大事な話があるということですが、」 謁見の間にて、王の隣にいる八人将のジャーファル様が言った。私は緊張の色を隠すためにキッと王を見据えた。 「シンドバッド様、私の顔を覚えていらっしゃるでしょうか」 そして私は王の子を身篭っていることを告げた。目が飛び出しそうなほどに目を見開く二人。ジャーファル様はそのすぐ後にシンドバッド様を睨み付けた。 「どうなのですか国王よ。彼女を覚えているのですか」 「……」 王はまじまじと私を見た後、気まずそうに「覚えている」と言った。その言葉にふらりとよろけるジャーファル様。ジャーファル様が「どうしてくれるんですかバカ国王」と呟いたのは空耳ではあるまい。 「致してしまったことはしょうがない。俺が責任を取ろう」 「そんな簡単に言わないで下さい!」 暫く、王とジャーファル様の言い合いが繰り返された後、ジャーファル様の方が折れた。今後は絶対禁酒ですからね、と呟いてジャーファル様は脇へと避けた。そして王は私に真剣な瞳で言った。 「私のせいですまなかった。責任はきちんと取ろう。私の王宮での生活を保障しよう」 冗談では決してなかった。その王の態度からそれが伝わってくる。私はその言葉だけでなぜか満足していた。嬉しかったのだろうか。胸が熱い。 「いいえ、国王様。私はあなたがあの夜のことを認めて下さっただけで十分でございます。私にも非があったのは確かですので」 「……」 「といいたいところですが、この子を育てる分のお金は頂きます」 「……承知しよう」 その後、その女性の消息は不明となるが、風の噂では森の奥でひっそりと暮らしているとかいないとか…… 御伽噺はまだ終わらない (森の奥で育った少年はやがて父と瓜二つに育っていくのだが、それはまた別のお話) ← |