世界がすっかり暗闇に支配された夜、一つの影がある部屋へと向かっていた。その影はそっと部屋の扉を開ける。そして大きなベットの上で寝息を立てている男を見つけると、ゆっくりとそちらへ近づいていった。 「シン、シン……」 その男を小さな手がそっと揺すぶる。窓から入り込む月光によって、その影は少女の姿へと成していった。男は目を覚まし、その少女の姿を見とめると眠そうに微笑んだ。 「なんだ、また怖い夢でも見たのか?」 「うん……シンが死んじゃう夢……」 「それはまた嫌な夢だな……」 そう言って男は、少女を自身のうわがけの中へと誘った。少女は嬉しそうに男に寄り添って横になる。この少女はもう、怖い夢を見たからといって泣くような年頃ではない。しかし目の前で両親を殺されたことがトラウマにでもなっているのか、少女は怖い夢を見ると必ずこの男の元へとやってくるようになった。 「ねえ、シン……」 「なんだい?」 「これからもずっとずっと一緒だよね?」 「……ああ」 「絶対絶対どこにも行っちゃわないでね」 「……」 「ずっとずっと私の側にいるわよね?」 「……」 男はすまなそうに眉根を寄せながら、少女の頭を優しく撫でた。 「……実は明日から少しの間、国をあける」 「え?」 少女は男の言葉に過敏に反応した。目にいっぱいの涙を溜めると、男に必死に哀願する。 「いやよ、いや!なぜそんな必要があるの!」 「……すまない」 「お願い、行かないで、私を置いて行ってしまわないで……!」 少女がいくらお願いしても、男は決して頭を縦に振らなかった。いつしか、泣き疲れた少女は男にしがみ付いたまま寝息を立てていた。それでも少女はうわ言のように、ある言葉を呟き続けた。 「行かないで」 叶わぬ願いと知りながら囀る小鳥 (少女が目覚めると、となりには誰もいなかった) ← |