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(生贄の女の子のお話)

険しい峰を幾つか越えたところに、それはそれは小さな村がありました。しかし、近年、干ばつに悩まされていた村人たちは生贄を神に捧げることを取り決めたのでした。






弛まぬ神の御加護






私は今日、生贄として死ぬ


でも涙の一粒さえ流れてこない。正直生贄なんて馬鹿らしい、とさえ思う。こんなことで干ばつが止むのか、とか。神様なんて本当はいないくせに、とか。浮かぶのは捻くれたことばかり。あるいは、自分がこのような辺境の少部族に生まれたときから、何かしらを覚悟していたのかもしれない。涙が出ないのはきっとそのせい。


「出発するぞ」


祭司さまに言われて、私は神輿に乗った。そして人々は村を出発し、山奥の湖まで長い行列を作った。なんでも、山奥の湖には神様が住んでいるらしい。そこに私は生贄として身を投げるのだ。神輿の中で母の啜り泣く声を聞きながら、私は静かにその時を待っていた。私の命が終わるその時を、













「準備は良いか?決して怨んでくれるなよ。これも村のためだ」
「・・・・・・わかっています」


村長に言われて、私は湖の前へと進み出た。母の泣いている声が先程から聞こえてくるけれど、もう振り返りはしない。昨日、きちんと父と母には今まで育ててくれた感謝を述べてきた。もう心残りはない。


そして、私は勢いよく湖に身を投げた。着せられていた豪勢な衣服に水が染み込んで重さを増し、私はどんどん湖底へと身を沈ませていった。薄れる意識。ああ、死んじゃうんだな、なんて思いながら最後にうっすらと目を開ける。視界に入るのは果てしない青。そして濃紺の髪をした神の使い……?


その神の使いは私の身体を抱くと、上へ上へと浮上させる。神の世界にでもいけるのかな、なんて呑気なことを考えていたのも束の間、私はいつの間にか湖面に顔を出して、激しく咳き込んでいた。湖の周りで儀式の様子を見守っていた村人たちが騒ぎ出した。


「おのれ!なんということを!貴様何者じゃ!」


村長が神の使いに抗議をした。いや、神の使いではないのか。村長怒鳴りつけてるし……


「我が名は七海の覇王シンドバッド。この土地では非常にめずらしい産物が採れるとお聞きし、海を越えはるばるやってきました」


覇王シンドバッドは村長に交渉を持ちかけた。食料をこの地に輸出させる代わりに、産物を提供するように、と。長い間彼と話し合った結果、村長はこれを飲み、交渉は締結。村は後に町となり、栄華を極めることとなる。


そして私は彼に命を救われたのだった


しかしそこに問題が一つあるとすれば、それはーー・・・・・・














神はいるのかもしれない、しかし

(・・・・・・先程から気になってるんだが、君は何故俺の後について来る?)
(命の恩人には一生をもって仕えろ、との古くからの村のしきたりですので、)
(・・・・・・え、うそ)
(・・・・・・残念ながら本当です)
(・・・・・・)