20XX年XX月XX日月曜日、とある高校二年生の女子生徒15名が行方不明となった。修学旅行で京都へ向かっている途中のバスの中での出来事だったという。共にバスに乗車していた男子たちは皆口をそろえて「バスが霧に包まれたあとに、気が付くと女子たちが消えていた。」と証言している。警察は当初、女子生徒たちがなんらかの事件に巻き込まれたものと見て操作を行っていたが、手がかりはついに何も掴めなかった。警察はこの謎の事件を集団失踪事件として片づけざるを得なかった。事件のあと、少女たちの姿を見た者は誰もいない。










それは修学旅行のバスに乗っていた時のことだった。高校二年生になってから間もなくの旅行のため、クラス内にはちらほらと見知らぬ顔の人たちもたくさんいた。


「ヤバ、めっちゃかっこいいんですけど」
「沖田さん―――!」
「はあはあ」


座席の前の子たちはゲームを手に何やら興奮しているようだった。時々耳に届く彼らの会話の内容はあまり理解できずにいると、隣に座っていた友達が私の肩を軽く叩く。


「最近乙女ゲームが流行ってるらしいよ」
「ヘ―」


彼女は智絵ちゃん。初めて同じクラスになり、仲よくなった子だった。彼女は前の二人が遊んでいるゲームをプレイしたことがあるらしい。結構おもしろいということだ。智絵ちゃんとたわいのない会話をしながら窓の外を除くと、辺りは霧に包まれていた。


「霧だよ智絵ちゃん」
「ほんとだ!大丈夫かな……事故ったりしないよね」
「大丈夫でしょ」


外の霧を眺めながら、一瞬異世界に迷い込んだような感覚にとらわれた。霧をあまり見たことがないからだろうか。そして、また不思議な浮遊感のような感覚。気が付くと、なぜかバス内の音が止んでいた。


「え?」


バス内の音が止むなんてありえない。私はすぐさま外を見るのをやめ、後ろを振り返る。しかし、そこにあったのは騒がしいバス内の光景ではなく、あたりに充満した濃い霧のみだった。一瞬、停止する思考。


「……名前ちゃん!」


どこかで智絵ちゃんの声がしたが、そこで私の意識は途切れた。








次に目覚めた時、なぜか草むらの中で倒れていた。弱冠痛む頭を押さえながら、起き上がってみると、そこは見知らぬ場所だった。周りに田んぼが広がっているところからして、どこかの田舎だろうか。


「キャーこっち来た―!」
「ワ―!」


背後から子どもの声がしたので振り返ると、子どもたちが走ってこちらへとやってきた。どうやら鬼ごっこの最中のようだ。若い青年が子どもたちを追いかけている。


「あれ―総司兄ちゃん!あそこに変な人がいる―!」
「ほんとうだ―!変な恰好!」


子どもたちが私から幾分か離れた場所で立ち止まると、私を指さしながら何か言っていた。私は子どもたちに今いる場所を教えて貰おうと立ち上がる。


「うわっ!こっち来るぞ!」
「総司兄ちゃ―ん!」
「はいはい。大丈夫だよ」


青年は子たちの前に出ると、私の目の前に来てまじまじと観察してきた。その目があまりにも冷たいものだったので、思わず身体を強張らせる。彼らの服装はなぜか現代のものとは遠くかけ離れていた。それは今は置いておいて、私は目の前の若者の方に集中する。彼はなざか腰から刀をぶら下げていた。


「君、ここらへんじゃ見ない顔だね」
「は、はい」


彼は私に対してにっこりと微笑む。目は笑っていないが。


「変な服着てるけど、どっかの密偵とかじゃないよね。こんなところで何してるの」


状況がいまいち飲み込めない。映画の撮影にしてはどこかおかしい。


「あの、ここはどこですか?」
「ここは京だよ」
「京?」
「うん。で、ここで何してたの」
「……」


どうやらここは京都らしい。


「私にも何が何やらよくわかっていないのですが、気が付いたらここにいました」
「へ―、狸にでも化かされたんじゃない」
「狸、ですか?」
「うん。君、化かされそうな顔してるよ」
「……それは、どういう……」
「まあ、とにかく、町への帰り方わかってるの?」
「いいえ、全然!」
「そう」


彼は飄々とした物言いで、送って行ってあげるよ、と言った。私はその言葉に甘えて着いていく。子どもたちは遊んでくれる人がいなくなるので、家路についた。しかし、歩を進めるごとに違和感は募って行く。田んぼのあぜ道を歩きながら通り過ぎて行った家々は現代の建物とは遠くかけ離れた、藁葺屋根だった。


「ほら、着いたよ」
目の前に現れた建物の密集を指さして、青年はあれが京だよ、と言った。また、違和感。京都ってコンクリートの建物は一つもないのだろうか。遠目からだったが、明らかに現代の都市だとは思えなかった。そして疑念は確信へ。


「何ここ」


私は両目を見開いた。都市、いや、都の往来を行く人々の姿を目にして思わず肩を震わせる。着物姿にちょんまげを結え、刀を差した男性たちにこちらも着物姿の女性たち。私の脳裏にありえない可能性がちらついた。


「あれれ、どうかした」


私を京まで案内してくれた若者が私の顔色を見ながら言った。


「あの、今って西暦何年ですか」
「せいれき?何それ。今は文久3年だよ」
「……うそでしょ」


ここは江戸時代だ。


私は軽い眩暈に襲われた。






残り15名













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