彼の乗る潜水艦が真っ青な空の待つ海上へと浮上した。私もその後へと続く。久しぶりに海の上に出て太陽を見た気がする。私は浮上したまま進む潜水艦の下を泳ぎながら彼らに続いた。暫くそうして泳いでいると、前方に見えてきたのは小さな島。小さな島だが、その港には数多の船がズラリと並んでいる。
どうしよう…
きっと彼らはこの島で物資を供給するつもりなのだろう。ということは、陸地に上がる彼を窓を挟むことなく間近で見られるということである。しかし、それには大勢の人間に近づかなくてはならないというリスクがあるのだ。人間は私たち人魚を捕まえては売り買いしたりするし、残虐だし、何よりずっとそう教わってきたから人間という生き物が怖い。彼は別に怖くないけど。
「いや、でも、ここは勇樹を出して…」
行くしかない
結論が出るのは早かった。
近くで彼を見られたらもう死んでもいいし。死んでもいいんだから、これはもう行くべきでしょ。恋する乙女は強いのよ。
訳のわからない単純な理由で自分を奮い立たせた私は、着岸した潜水艦にそっと近づいた。ぞくぞくと陸地に足をつける船員たち。しかし、その中に私の探している人物の姿はなかった。
あれー?
かれこれもう数時間過ぎるが、待ち人は一向に姿を現さない。
「これはもう陸に降りないパターンですかね?」
私は半泣きになりながら周りを優雅に泳ぐお魚さんたちに話しかける。しかしお魚さんたちは一瞬悲しそうな目を私に向けてから、無言で泳ぎ去っていった。これは、同情なのかしら…。余計に悲しくなるわ。
あとちょっと待って出てこなかったら海に潜ろうと思う。そろそろ諦めないとマジで危険。
そんなことを思っていた頃、奇跡は起こった。彼が船上から姿を現したのだ。
(待った甲斐がありました!)
私は彼の死角から彼の隅々までよく目に焼きつける。幸せ。
「そんなことをしてて楽しいか?」
「へ、」
それは予期せぬ突然の出来事だった。今この瞬間、なぜか彼と目が合っている私。
あらら?
彼は私を見下ろしながら、頬ずえをしてしゃがみこんだ。その口元はなぜか弧を描いている。
「人魚がこんなところでなにしてるんだか知らねえが」
「な、なんで人魚だって……!」
「さっさとどっか行かねえと獲って売るぞ」
あまりに突然の出来事に私は頭が真っ白になり、すぐさま海に逃げ帰った。
でも初めて彼と話せたのでよしとする。
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