父と母を失った
妹と弟を失った
愛するものを失った
守るべきものを失った
帰る場所を失った




生きる理由を失った











02











身体がだるい。指の一つを動かすのでさえ躊躇われるほどの倦怠感が全身を包んでいる。鼻の奥につんと届く薬品の匂い。


そういえば私は何をしていたのだっけ。


最後にあの海賊たちがあっけなくやられていく姿はこの眼に焼きついているのだけれど。そのあとの光景がどうしても頭に浮かばなかった。


私はパチリと目を開けた。パチパチと何度か瞬きをして、視界のピントを合わせる。


「起きたか」


視覚からの情報を得るより早く、聴覚からその情報はもたらされた。私はその声の発せられた方に反射的に目線を傾ける。


「……だれ」


目線を傾けた先にいたのは、目の下にうっすらと隈のある柄の悪そうな男だった。その男は不適に笑うと言った。


「気分はどうだ」


どうしてこの柄の悪そうな男が私の身体を気にかけているのか、一瞬わからなかった。


「気分……、」


男のその言葉の真意を理解しようと努める。しかし、そもそもその言葉に真意もなにも含まれて居ないことに気づくのには時間がかかった。私は目の前にある事実それのみを受け入れればいい。ただの単純作業。


「あなたが私を助けてくださったのですね。ありがとう」


それは私の心からの言葉ではない。本当は助けてなど欲しくはなかった。しかし、今はこの目の前の男の良心に感謝をせねばならない。きっと、善意から傷つく人を助けただけなのだから、そこに私の個人的な事情は関係ない。


「どうして空から降ってきた」


男は私の感謝の言葉を聞き流して、それだけ問いかけた。傷を負った脇腹がズキンと痛む。答えるのも億劫だった私は簡潔に言葉を紡いだ。


「悪魔の実の能力で」


「何の実だ」


「さあ…」


「そうか…」


そこまで聞いて男の私への興味は尽きたようだった。男はさもつまならないというように足早にドアの方へ向かうと、ドアの側に控えていた部下らしき人たちに何かを伝え、さっさと部屋を後にしてしまった。


これから私はどうなるのだろうか。


いや、どうすればいいのかも今の私にはわからないのだけれど。


私はまた、重い目蓋を閉じたのだった。



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