それは、ある国に用があって訪れたときのことであった。その国はバルバッドのように国民が貧しい暮らしを強いられていて、見るも無惨な状態であった。


内乱が起こる前は豊かな国であったのにどうしたものか、と俺は思案を巡らせながら城内をふらふらと歩いていた。そして俺はいつの間にかある湖の前にたどり着いていた。随分遠くに王宮が見えるところからして、結構歩いていたようだ。


ふと、気づいた。


前方に湖面を眺めながら佇む女がいることに。髪を風に靡かせて佇む姿が美しかったが、なぜか彼女に違和感を感じた。暫く彼女を見つめているうちに、その違和感の正体にようやく気づいた。それは顔に生気がないこと。しかしそれに矛盾して、その瞳は爛々と光っていた。まるで何かを憾んでいるような、そんな瞳。


彼女は誰かに復讐したがっている


漠然とそう核心した。それは長年の自分の経験から導き出した核心。
俺はしばらくの間、彼女から目が離せなかった。なぜだかは自分でもわからない。彼女は俺に気づくことなく湖面を眺め続ける。そんな彼女は、ただ果てしなく黒い世界に居るのだと、そう思った。彼女の復讐を止めなくてはならない、そう思った。復讐など意味のないものだということを教えなくてはならない。


なぜか強くそう思った。


そして俺は次に彼女に会ったとき、彼女が誰を殺したがっているのかに気づくことになる、







男は無意識に嫌う
(彼女が完全に黒く染まるのを)










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