谷底に落ちながらも目に入ったのはシンドバッドさんの顔だった。どうやら何か叫んでいるようである。


「シェーラー!ピーちゃんを呼べーー!!」


"ピーちゃん"ってなんだよ


名前からして


・・・・・・鳥?


そして私はあらんかぎりの声でその名を呼んだーー・・・・・・























「いや〜でも今回はさすがにひやひやしたな〜」


帰り道、シンドバッドさんは大きな口を開けて笑った。その両隣ではジャーファルさんとマスルールさんが飽きれ顔をしている。


そして谷底に落ちた私がなぜ無事なのかというと、今私を背に乗せて飛んでいるこの"ピーちゃん"のおかげ。どうやらシェーラさんの友達であるらしい。私はシェーラさんではないが、助けに来てくれたことに感謝感謝。ピーちゃんとはなんのひねりもなく、その名の通り鳥であるが、顔は怪獣のように怖い。


「それにしても本当にどうしちゃったのですか、シェーラさん。あなたならあんな賊ぐらい簡単に仕留められたでしょうに・・・・・・」
「あ、そのことについてみなさんにお話したいことが・・・・・・」


私はピーちゃんに地上へと降ろしてもらうと、お礼を告げた。ピーちゃんは心なしか嬉しそうに鳴いたあと、空高く舞い上がって見えなくなる。


「お話とはなんですか?」
「えっと、ここではなくて、シェーラさんと知り合いの人がみんないるところでお話したいです」


シンドバッドさんを含め、三人は微妙な顔つきをした。自分のことをさん付けで読んでいると思っているのだから無理もないが。そんな微妙な雰囲気の中私たちは王宮に着く。とりあえず早急に"八人将"とアリババくん、アラジンくんがシンドバッドさんの政務室に召集された。


「あの・・・・・・!」


八人将とシンドバッドさんが並ぶとかなりの威圧感がある。そんな中、私は少しの勇気を振り絞って声を張り上げて言った。


「……まず始めに断って起きますと、私はみなさんの知るシェーラさんとは全くの別人です。今日はその事についてみなさんに聞いて欲しいことがありまして……」


ザワッ、と室内の空気が揺れた。


「姿はすごく似ているらしいですが、私はシェーラという人物を全く知りません」
「では、君は誰だ」


シンドバッドさんの纏っている空気が変わった気がした。なぜか、この場所から逃げ出したい衝動に駆られる。それでも、まだ一番言いたかったことを言えていないから、その場は唇を噛み締めて耐えた。


「私の名前は亜子です。そして、この世界とは別の世界から来ました」
「なに……!?」
「でもなぜこの世界に来てしまったのかわからないのです……」
「……」


訪れる静寂。そんな中、私はシンドバッドさんの目を見続けていた。私は嘘をついていないということをわかってほしかった。


「でも亜子お姉さんのルフは、シェーラお姉さんのルフと同じみたいだけどな」


長い沈黙のヴェールを剥いだのは、アラジンくんだった。アラジンくんはいつもの笑顔で私を見据える。


「たぶん、君はシェーラお姉さんで間違いないよ。この世界でいう亜子お姉さんはシェーラお姉さんってことだよ」



(つまりそれは……どういうことなの)