「何をそんなに嫌がってるんだいシェーラ?」


私は今、シンドバッドに引きずられ、宮殿の廊下を移動していた。


「・・・・・・」


なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。それは小一時間ほど時間を遡らなければならない。
小一時間前、私はアラジンという子供に誘われるがままに広間に向かっていた。広間で朝食をとろうというのだ。そしてそれまでには、私は一つの核心を胸に抱いていた。


ここは私のいた世界ではない


先程の廊下の曲がり角で偶然出くわした、「アリババ」とアラジンに呼ばれる少年をまじまじと見つめながら、私は考えた。もしかしたらここは昨日読んだ、とある漫画の世界ではないだろうか、と。アラジンとアリババはその漫画に登場した登場人物に非常によく似ているのである。


「あ!シンドバッドおじさんだ!」


アラジンが両手を伸ばして嬉しそうに微笑んだ。アラジンの視線の向こうからやってくるのは、長い濃紺の髪を揺らし、数々の宝石を身に纏った青年だった。


ほら、やっぱり


私は改めて核心した。ここは漫画の世界、なのだということを・・・・・・


「やあ、シェーラ!今日は俺と一緒に散歩に着いて来てくれる約束だったよな」
「・・・・・・へ?」


と言ってシンドバッドと呼ばれた青年は私の腕を強くひいた。私はわけがわからずよろけて危うく転びそうになる。おっとっと、と青年はそんな私を支えた。そして冒頭に至る。


「いつからこんなに鈍臭くなったんだシェーラ」


一体シェーラとは誰なのだろう。青年の瞳をまじまじと見つめてから、先に行ってますね、と遠ざかっていくアリババとアラジンに目をやりながら、もんもんと考えた。
みんな私のことをシェーラと呼んでいるのはなぜ。私はシェーラなんて人物は知らない。きっとみんな人違いをしている。


「あの・・・・・・私、シェーラなんて名前ではありません」


きょとん、とシンドバッドは目をしばたかせた。そして、失笑。


「またいつもの嘘かい?」
「ち、違います!」


ぽんぽん、と彼は私の肩を叩いた。


「どうせ俺と散歩に行くのがめんどくさくなったからだろう。俺の目はごまかせないぞ」
「ち、ちがっ!」「はいはい、いいから行くぞ」


ダメだこの人。全然わかってくれない。私は彼に引きずられながら、今の状況の打開策を練るがなかなか見つからなかった。




(困った困った)