(ちょっとした騒動に巻き込まれる話)





「あの子供は一体なんなのですか!?」


朝早く、仕事に向かう途中にシンドバッドさんの部屋の前を通れば、ジャーファルさんが凄い剣幕でシンドバッドさんに詰め寄っているのを見かけた。ジャーファルさんの様子でただ事でないナニカが起こったことがわかる。


「どうしたのですか?」


思わず二人に問い掛けてみる。すると、ジャーファルさんの口から信じられない返答が返ってきた。


「シンの子供が今朝王宮の門の前に置かれていたのです……」


目が一瞬点になった。


こ、子供……!?


しかし、少し冷静になって考えてみるとそんなにおかしなことではない。というより、あの酒癖の悪いシンドバッドさんのことだから、子供が現れちゃっても別におかしくはない。むしろ頷ける。でも、訳あって結婚する気はないというシンドバッドさん。子供はいいのだろうか、と少し疑問ではある。



「だから、証拠がないだろう!顔だって全然似ていないし!」
「母親似なんですよ!第一、証拠もなにも日々のあなたの行いが決定的な証拠です!」


反論するシンドバッドさんだが、ジャーファルさんは全く聞く耳を持たないご様子。


「亜子は信じてくれるよな!?」


シンドバッドさんは紅玉ちゃんのときにように私に助けを求めるが、今回は前みたいになんの確証もないので知りませんよ、と冷たく言い放ってみた。うな垂れるシンドバッドさん。そんなシンドバッドさんを見て自業自得だと思うのは私だけだろうか。


「どうしたんですかー王様ー」
「なにかあったのかしら?」
「顔色悪いぞ」
「なになにー?おもしろそう」


そうやって廊下で修羅場を繰り広げていたため、すでに見物人たちによって私たちの周りは囲まれていた。その騒ぎを嗅ぎ付けた八人将たちやアラジンくんたちまでも集まってくる始末である。


「はいはい散って下さい。見世物ではありませんよ」


ジャーファルさんが周囲の様子にようやく気づいて、注意する。するとすぐに多くの見物人たちは仕事場に帰っていったが、八人将たちはしぶとく居残った。


「あなたたちも仕事に戻って下さい」
「まあまあ、俺たちも手伝いますから!」
「何をです……育児ですか?」
「違いますよ……。第一、置手紙にはなんて書いてあったんです?」


シャルルカンさんは置手紙を読んでくれるよう、ジャーファルさんにお願いをした。その要求にジャーファルさんは無駄なことを、と言いたげな顔で懐から取り出した置手紙を読んでくれた。


「"これはシンの子供です。可愛がってあげてください"」


え、それだけ?


場が沈黙したことから、たぶんみんなそう思ったのだろう。これだけでは別にシンドバッドさんが父親だということにはならないのでは……、と。


「……これだけじゃ別にわからなくないっスか」
「それもそうだな。"シン"がつく名前なんていくらでも……」


それはみんなも思ったのか大きく頷いていた。しかし、ジャーファルさんのあまりの剣幕に、直接それを指摘する人など誰もいない。まさに触らぬ神に祟りなしである。


「いったい母親はどこの誰なのですか!?」
「だから、俺の子じゃないって!」


直も言い争う二人。シンドバッドさんは自分の子供であることを必死に否定し続ける。そんなシンドバッドさんに同情の念を抱いたのは私だけではないはず。紅玉ちゃんとの一件の後だったので、尚更同情の念は募る。そしてついにヤムライハさんがこう呟いた。


「本当の父親を探してあげない?」


まあ、本当にシンドバッドさんが父親の可能性もあるが、みんなはこの提案に賛成することにした。大事な仕事がある人以外はこの事件に協力してあげることにしたのである。


そしてみんな自分の思うように散り散りになっていったのであった。






つづく