(初めての飲み会)


「亜子!散歩に行くぞ!」


雑務がようやく終わって、自室に戻ろうとしたところをシンドバッドさんに捕まった。彼の背後にはシャルルカンさんがいた。


「シャルルカンさんまで・・・・・・!」
「まあお固いことは言わずに一緒に行こうぜ!」
「「散歩!」」
「・・・・・・」


"散歩"と言われて思い出すのは、あの最悪な出来事。正直、悪い予感がするのも事実である。でも今日はシャルルカンさんもいる。だからなのか、その時の私は警戒心が少しだけ鈍っていたのかもしれない。


「・・・・・・少しだけなら、」


と了承の言葉を告げた私は、上機嫌な男二人の後に着いて行ったのだった。


「なにここ、」


そうして着いた場所を目の前に、私は呆然とするしかなかった。そこは居酒屋やキャバクラが建ち並ぶ大きな通りで、二人はすかさず近くのキャバクラに入って行った。こいつら女の私を連れて迷わずそこに入るのか、と思わずこめかみがピクピクする。


「おーい!早く来いよ亜子!」
「このチャラ男どもが」


私はそう吐き捨てながらも、熱気溢れる店内へと入って行った。









「はっはっはっ」
「最高ですねーー!」
「・・・・・・」


たくさんの女性に囲まれながら、すっかり酔っぱらってしまったチャラ男たちを目の前に、思わず無言になる私。今の私、絶対目が据わってる。


「お嬢さん本当にお酒が強いのね!」


隣に座っているお姉さんが、私の飲みっぷりを見ながら驚いたように声を上げた。


「そーなんだよ!全然酔わないんだ彼女は!はっはっはっ!」
「よし亜子勝負だぜ!」


そう言ってシャルルカンさんに渡されたのは大ジョッキに並々と注がれたお酒。いくぜ!とシャルルカンさんはぐびぐびとそれを一気飲みし始めた(※よい子は真似しないでね)。私は飽きれ顔でその飲みっぷりをただ眺める。シャルルカンさんはジョッキを飲み終わったかと思うと、そのままソファーに倒れ込んで寝てしまった。


「カノジョ、今夜一緒にどうだい?」


やっと静かになったかと思った途端に隣から聞こえて来た衝撃的な言葉に、私は勢いよく振り返る。そこにはお姉さんにもたれ掛かって口説くシンドバッ・・・・・・チャラ男の姿があった。


「・・・・・・帰りたい」


私がそっと漏らした言葉は、店内の喧騒の中に消えていった・・・・・・





「またのご来店をお待ちしておりまあーす!」
「・・・・・・」


閉店時間間際に店を追い出され、途方に暮れながら路上に佇む私。その両手には泥酔している酔っ払い男二人。最悪だ。もう嫌だ。ああ、嫌だ。さっさと帰ろう。


「ピーちゃん!」


彼は直ぐに来てくれた。こんなことに呼び出してしまって胸が痛む。ごめんね、ありがとう!と何度も彼に頬擦りをした。さて帰ろう!と酔っ払い二人をピーちゃんの上に乗せようと二人に目をやる。しかし、二人が寝転んでいたはずのところには誰もいない。


「うそ・・・・・・!」


私は慌てて辺りを見渡す。


「うおえーー!オロロロ!」
「なあカノジョ、今夜どうだい?」









「・・・・・・」


亜子はこの時ほど人に殺意をおぼえたことはなかったと云う。


(もう絶対に行かない!)
(亜子行こうぜ!)
(いやです!)
(行こうよ!亜子お姉さん!)
(アラジンくん!?)
(行こうよお姉さんー!)
(・・・・・・少しだけなら)
↑これの繰り返し