前回のあらすじ
煌帝国のお姫様、紅玉ちゃんがシンドバッドさんに辱められたと結婚を迫ってきた!そういうお話。











「全部夏黄文さんがやりました」


姫君がかわいそうだという官吏二人によって、夏黄文さんの悪巧みは呆気なくバラされてしまった。シンドバッドさんのベッドに紅玉ちゃんを寝かせたのは夏黄文さんだったのである。そういうわけなので、当然反逆者となってしまった夏黄文さん。剣でもって抵抗にでるが、それは白龍皇子によって止められたため大事にはならず、こうしてこの事件は呆気なく解決したのだった。ちゃんちゃん。それにしてもどこかの王様とは違って白龍皇子はカッコイイ。









その日の夕食が済んだあと、私はシンドバッドさんに政務室に来るよう言われた。あの祭りの日にした約束を彼は覚えていてくれたらしい。


「失礼します」


政務室に入ると、ソファーにゆったりと腰かけるシンドバッドさんの姿があった。私はまず初めに、約束を覚えていてくれたことについての感謝を述べる。


「ははは、君は本当に礼儀正しいね。それで何から話始めようか」
「シェーラさんがこの王宮でどんな仕事に就いていたのか教えて下さい」


私がシンドバッドさんと祭りの日に約束したのは、シェーラさんについてくわしく教えて欲しいというものだった。私は実際シェーラさんのことをあまりよく知らない。時々シェーラさんのことを耳にしても疑問は膨らんでいくだけで、なんの解決にもならなかった。シェーラさんのことを聞けば私は自分の本当の役目がわかると信じていたのだ。


「仕事かあ……シェーラは確かにこのシンドリア王国の食客の一人だったけど、これといった仕事には就いてなかったな。それに王宮へはあまり寄り付かなかったしな……」
「それはどういう……」
「彼女は一つのところに留まることを好まなかった。だから常にシンドリア国内をぶらぶらしていたんだよ。それで時々、気に食わないことがあれば俺に直接報告してきた。たとえば密輸港のこととか、役人の怠慢のこととかな」


なんて自由な人なんだろう。彼女のことを聞いて真っ先にそう思った。


「でも俺が国外にでるときは必ず着いてきたな。遊び半分で」
「それでは、シェーラさんは武術も達者だったということですか?」


シンドバッドさんに着いていくということは、ある程度戦闘能力も有していないといけない。そうでなければただの足手まといになってしまう。


「ああ、強かったよ彼女は。シェーラは結構名のある魔導師で、ある程度剣術も体術も出来たしな」
「魔導師……」


だから、ここに来て間もなくの頃、ヤムライハさんには魔法を見せ、シャルルカンさんには剣の相手を頼まれたのだ。私が彼女と一緒で両方できると思われたから。


「……ありがとうございました」
「ん?もういいのかい?」
「はい、十分です。お忙しい中失礼致しました」


ずっと聞きたかったことは聞けた。シェーラさんがどんな人物なのかもわかった。あとは私がこれを聞いてどうするか、だ。私は室を後にしようと扉に手を掛ける。


「亜子……」
「はい?」
「この前、いい酒屋を見つけたんだ。また飲みに行こうな!」
「……」


私は返事をすることなく扉を閉めた。





















「シン……このままでもいいじゃないですか。彼女は私の側で十分役にたっているのですから」


部屋の隅の暗がりの中、姿を現したのはジャーファルとマスルールであった。ジャーファルは女の消えて行った扉に目をやりながら、自身の主に対して問うた。


「いや、彼女は大事な我らの戦力だった。それはジャーファルもわかってるだろう?」
「わかってますけど、だからってこれからあの子がどうするかなんてシンにもわからないでしょうに……」
「いや、亜子は絶対に強くなりたいと願っている」
「なんでそう言い切れるんですか」
「わからんが、そんな気がする」
「……」
「なんだジャーファル」
「……いいえ何も」
「七海の女ったらし……」
「ん?何か言ったかマスルール」


ジャーファルとマスルールも室を後にしようとしたが、止めた。そういえば他にも何か重要なことを聞いたような……


「シン……そういえば、あなたいつ酒屋なんて見つけたのですか?それに、亜子にまた飲みに行こうって、言ってませんでした?」


……


「……ん?」





(とぼける主君に対してジャーファルの雷が落ちたのは言うまでもない)