私はお祭りの夜、シンドバッドさんにある頼み事をしたーーーー……













お祭りの日から幾日か経ったころ、私はシンドバッドさんとなぜか飲み仲間になっていた。どうやら、お祭りの私の飲みっぷりが気に入ったらしい。シャルルカンさんたちも連れて、何回かジャーファルさんの目を盗んでは市街地に飲みに行ったりしたが、毎回泥酔したシンドバッドさんをピーちゃんに乗せて帰宅、というお決まりのパターンが出来てしまった。酔ったシンドバッドさんは本当に性質が悪く、手当り次第に女性に手を出したがる。酔った彼は本当に厄介なのだ。そして、いつの間にか私は酔ったシンドバッドさんの"お守り"という役割になっていた。まったく先が思いやられる。


そんな悩み多き毎日を過ごしていたある日。シンドリア王国に煌帝国の使節団がやってくるということで、私はジャーファルさんに着いて港へと出迎えに来ていた。私がたくさんの船団の威圧感に圧倒されていると、まず船の中から大きな剣を腰から提げて、堂々とした少年が降りてきた。そのあとに着いて現れたのは、綺麗な衣装に身を包み、可愛らしい顔をしたお姫様。


この子たちが白龍くんと紅玉ちゃんね


すでに漫画でこの場面を知っていた私。当然この後なにが起こるのかも知っている。ほら、早速始まった。


「は、はずかしめたあ!?」
「ちょっとあんたアアア何したんですかアア!!」
「なっ、何もしてないよ」


隣にいたはずのジャーファルさんが、いつの間にかシンドバッドさんの襟を激しく揺すっていた。紅玉ちゃんなんて泣き出しちゃう始末。内容が内容だけに辺りは騒然として、大騒ぎ。そんな中、この大騒ぎの結末を知っている私だけが平然とその様子を眺めていた。あ、前言撤回。白龍くんも指して興味がないらしく、平然とこの騒動を見物していた。さすがである。こういうのを"クール"っていうのかな……。なんて思いながら白龍君を見つめていると、偶然にも目と目があった。すぐに逸らされたけどね。


「亜子!おまえは信じてくれるよな!」


とかなんとか、せっかく高見の見物に浸っていたのにシンドバッドさんがうまい具合にぶち壊してくれた。なぜか周りがしんっとなって、私に集中する視線。なぜ私に振ったんだよ。


「……やってないんじゃないですか?」


一瞬、私が放ったその一言に周りにいた人たちがみな呆けた。シンドバッドさんに限っては両手を広げて喜んでいる。


「亜子!俺はうれしいぞ!」
「……よかったですね」
「亜子!正気ですか!?」


私は目が血走ったジャーファルさんに思いっきり肩を揺さぶられた。だってシンドバッドさんの身が潔白だってことを知っている私が、完全に否定しちゃったら可愛そうじゃないか。結果的に、私、空気読めない人になってるけど……


「あなたはあの人の酒癖を知らないからそう言えるのですよ!」
「いや、王さまの酒癖の悪さは亜子が一番身に染みてわかってるだろ……」
「は?何か言いましたか?」
「いいえ何も!」


シャルルカンさん、気を付けてくれ。シンドバッドさんと夜な夜な飲みに行ってることは最高機密なんだから。


「亜子だけが俺の味方だ!」
「・・・・・・よかったですね」
「そこの貴様!紅玉様が戯言を申されていると抜かすか!」


シンドバッドさんに肩を抱かれながら半笑いしていると、夏黄文さんに指を刺されて怒鳴り付けられた。というかおまえがこの騒動の犯人だろ。私、知ってるんだからな。私は夏黄文さんに蔑みの視線をプレゼントした。


(まだまだこの騒動は続くみたいだ)