「わあ……!」


上空から見たお祭りの風景は、私が今まで目にしたどのお祭りよりも盛り上がっていた。それはこの国の豊かさを示すのには十分なもので、笑い合う人々たちの声が上空の私のところまで聞こえてくる。この国に息衝く人々の声。シンドリア国の繁栄振りを目の前に、なんて小さくて、そして大きな国なのだと思った。そして、この国を築き上げ、統べるあの男の偉大さに敬服の念さえ生まれてくる。たとえ普段どんなにおちゃらけた人物であったとしても、だ。


「ピーちゃんお祭り来てよかった……ありがとう」


涙が一滴、私の頬を伝った。それは壮大で雄大なものを前にしての畏敬の念からくるもので、私はこの時、初めてこのシンドリアという国に魅せられたのだった。


いつか自分の足でこの国を見て周りたい……


素直にそう思った。


「おーい!亜子ーー」


王宮の近くを通り掛かったとき、下から聞き覚えのある声がした。その声の方に目をやれば、綺麗な女性たちに囲まれたシンドバッドさんの姿があった。せっかく人がシンドバッドさんの偉大さに気付かされたところだったのに……前言撤回しようかな。シンドバッドさんがこっちに降りてこいと手招きするので、私はその誘いを無下にも出来ず、渋々シンドバッドさんの近くへ降り立った。


「こっちに来なさい。酒があるぞ!」
「まあ、シェーラ様だわ!」
「こちらへどうぞいらして下さい」
「さあさあ遠慮なさらずに!」
「あら、でも王様は亜子と呼んでいらしたわよ」
「そんなことどうでもいいじゃない。どうみてもシェーラ様だわ」
「そうね!ごめんなさい聞き間違いね」


シンドバッドさんの周りの女性に促されるまま、彼の隣に座らされた。なんだかデジャブ。途中聞こえてくる女性の会話に思わず苦笑してしまう。とりあえずシェーラさんだと思って貰えてよかった。自分がシェーラさんではない人物だと気付かれたら、また恨まれかねないからね。


「さあさあ飲みたまえ!」


シンドバッドさんは上機嫌で私が持たされていた杯に酒を注ぎこんだ。酒は好きでも嫌いでもないが、酒には強いため飲んでもさして問題はない。だから目の前の男が酔いつぶれるまで飲んでやろうと、お祭り気分で私は杯を口へと傾け、酒を流し込んだ。


「お!嬢ちゃんも酒を飲めるクチなのか!」
「またそんなに飲んで……!」


周りに集まってきた八人将が私の酒の杯を傾ける様子を見物しはじめた。ジャーファルさんは例外で、シンドバッドさんが酒を飲む姿に飽きれ顔をしている。


「アリババさんたちに八人将を紹介してあげるんじゃなかったんですか!」
「ああ!そうだったな」


そうして、シンドバッドさんはアラジンくんたちに八人将の紹介を始めた。この場面は漫画で一度目にしていた場面だったので、私は気にせず杯に残った酒を口の中に流し込む。……と、なにやら視線を感じて、私は辺りを見回した。すると、モルジアナちゃんと目があった。彼女は目を逸らそうとはせずに、私をじいっと見つめてくる。そういえば、モルジアナちゃんとはあまりお話したことがなかったな……。シェーラさんとはどうだったかは知らないけれど、私は仕事に追われ、モルジアナちゃんは修行に追われていたから、お互いに絡む時間もなかったし……。あとでお話ししてみたいな、と私はモルジアナちゃんに笑顔を送った。すると、モルジアナちゃんの呆けた顔が想いの外帰って来たので私は何かしてしまったのかな、と気まずい思いで視線を逸らした。


「シェーラ様、今度はいつ旅に出てしまうのですか」


シンドバッドさんの杯に酒を注ぎながら、女の一人が思いだしたように私に問うた。私はその言葉になんの事だかわからず、思わず首を傾ける。


「あら、そんなことシェーラ様に問いただしても無駄なことよ。シェーラ様は誰よりも気まぐれな方なんだから!」
「そうだったですわね!ごめんなさいシェーラ様!」
「……いいえ、大丈夫です」


旅……


シェーラさんは旅が好きだったのか、と私は初めて聞いたシェーラさんに対する事柄について考え込んでしまった。どんな人物だったのだろう……とこの時ほどシェーラさんについて思ったことはなかったから。


物思いに耽り、幾度も杯を傾けながら、お祭りの夜は更けていった。


(彼女はいったいどんな人だったのだろう)