「シェーラに会った!?」


シンドバッドさんの政務室で今朝の夢の話をすれば、シンドバッドさんは想いの外驚いていて、私までつられて驚いてしまった。ジャーファルさんに今朝の夢の話をしたところ、ぜひシンにそのお話をしてあげてください、と言われて、私は今ここにいる。


「どこで……」
「夢の中です。ちなみにシェーラさんが私をこの世界に連れてきたそうです」
「またなんでそんなことを、」
「この世界に飽きたと言ってましたよ」


その私の言葉を聞いてシンドバッドさんは、あーーー、と額に手を当てた。その目には脱力感が伺える。


「"飽きた"とかシェーラさんらしい理由ですね、シン……」


ジャーファルさんの目にも光がなくなってしまった。なぜか無言になる二人。


「・・・・・・」


一向に喋らなくなった二人にいい加減痺れを切らした私は、失礼しました、と言って政務室を後にしたのだった。


(今の見た……)
(ええ、あの子シンドバッド様のお部屋から出て来たわ)
(許せない)


そんな会話が廊下の影で行われていたとは露知らず、私は仕事に戻ったのだった。















「祭りだあ!」
「祭りよおお!!」


雑務で走り回っていると、どこもかしこも騒がしくなってきた。私は咄嗟に"祭り"という言葉で理解した。これはたぶん漫画に描かれていた、南海生物の襲来により行われる祭りだろう。確か"謝肉宴"とかなんとかいった気がする。


お祭りに行ってみたい……


素直にそう思ったが、今は一応仕事中である。王宮で働いている人も祭りに出られるとは限らないわけなので、私は早速、そのことについて聞きにジャーファルさんの仕事部屋へと足を運ぶことにしたのだった。


「・・・・・・いない、」


薄暗い部屋で冷静に考えてみれば、ジャーファルさんも八人将の一人なのだから今ここにいないのは当たり前だ。すっかり忘れていた。仕方ないから他の人に聞こうかな・・・・・・、と扉の取ってに手を掛けたときーーーーガチャリ、


「・・・・・・あれ、開かない」


扉を開けようと引いたり押したりするが、なぜか開いてくれない扉。どうやら外から鍵が掛けられている模様。


「えーーー・・・・・・」


嫌な無気力感が私を襲う。きっと最近私の噂をしていた人達の仕業に違いない。・・・・・・しょうがない。残りの仕事でもしましょうか。私は何も努力をしないで今の仕事を与えられているのだから、このように妬まれても仕方がない。でも私はそんなにうまく出来た人間でもないから、祭りに行けないことを恨む気持ちも多少はある。だから、その気持ちを和らげるために私は残りの仕事に集中した。





残りの仕事も片付いてしまって、私は一人窓辺で黄昏れる。今はもう静かな気持ちで、そよ風に髪を任せる。お祭り行きたかったなあ、と呟いた言葉は風に乗ってどこかへ行ってしまった。なんだかお城に行けないシンデレラみたい。会いに行きたい王子様もいないけれど、と自身を嘲笑してみる。


「ピーちゃん・・・・・・呼んだら可哀相かな・・・・・・」


ピーちゃんが居れば、ここから容易に抜け出せるのに・・・・・・


そんなことを思っていると、月に小さな黒い斑点があることに気付いた。それはだんだんと大きくなっていき、形を成していく。


「ピーちゃん!」


私は飛んでくる一羽の鳥の姿を見止めて、歓喜の声を発した。


「どうして来てくれたの!?呼んでないのに!」


私がうれしくなってピーちゃんに抱き着くと、その鳥は嬉しそうに一鳴きした。


「お願いピーちゃん!私もお祭りを空から見てみたいの!」


お安い御用だと、ピーちゃんは私を背に乗せて羽ばたいた。それにしても、なぜピーちゃんは私にこんなに優しくしてくれるのだろう……。今度シェーラさんに聞いてみよう。夢でまた逢えたらの話だけどね。


こうして私は閉じ込められていた部屋から抜け出したのだった。


(さあ、お祭りの様子を見にいきましょう)