俺はある夜、天使を見た。翼はないものの、宙に浮いたその子は泣いていた。何がそんなに悲しいのか、ひたすらにしゃくりあげる。


月光を浴びて、冷たい夜風に髪をなびかせながら泣くその子に俺は不思議と目が離せなかった。


また、どこかで会えるだろうかーーー……






気になる世界



それから大分経って、俺はあの時のことをほぼ忘れかけていた。あの時のことはあまりに現実離れしていたから、俺は夢でも見たんじゃないかと、思うようになった。


そんなある日、外での体育が終わって、俺はふと校舎の方を見上げた。そして、偶然、知らない女と目が合った。それは廊下の窓で、俺はその女をじっと見つめた。その女も目を逸らすことなく俺を見つめる。


あの女、どこかでーーー……

「……!」


俺ははっとして走り出した。隣に居た忍足が発する驚きの声を無視して俺は校舎の階段を駆け上った。そして女の居た廊下を目指す。


はあはあ



女はすでにそこには居なかった。だがあの女の顔は、確かに、いつか見た泣いていた天使と同じものだった。
俺は息を切らしながら、静かな胸の高鳴りを感じた。