迷い込んだ路地裏で、白衣を身に纏った男に出会った。耳に響く心地よい囁きを彼は発する。


「三つだけ君の願い事を叶えてあげよう」



その代わりにーーー……






さよなら、世界









「きゃー跡部様ーー!」
「こっち向いてー!」


 響く甲高い女子たちの声援。その先にいるのは、跡部景吾。私はその様子を不思議な面持ちで見つめた。


 私が漫画『テニスの王子様』の世界へ来てから、もう一ヶ月近くが経った。それなのにまだこの世界に慣れることが出来ない。
 大好きで仕方がないテニプリの世界のキャラクターたちが、目の前にこうして存在しているのがまだ信じられないのだ。


 やっとこの世界に来てから落ち着いて考えられるようになったことは、自分の身に何が起こったのか、ということだけ。
 私は自分の手を見つめた。確かにそこにある私の手は、それが二次元のものなのか三次元のものなのか,私には未だ持ってわからない。でも私の手は確かにそこにあった。これが一番不思議。
 あとは、テニヌって呼ばれてるぶっ飛んだ技が見てみたいな。って思う。あと、ちょっとでいいからキャラクターたちと話てみたいな。……この世界でしたいことはそれくらい。
 もっとキャラクターたちと深く関わってみたいけれど、その先に何があるのかって考えちゃうとなんか居た堪れなくなるから。それに元の世界に帰りずらくなっちゃうからね。



「名前〜次の時間移動教室だからいっしょに行こ」
「うん」


ここは不思議な世界。私の世界と似たようで違うパラレルワールド。